他のアイテムは、希望者には予約を取っているようだけど、通信販売になるのだろうか? 香港非在住のガイジンには到底無理とあきらめ、また歩き出す。
……そういえば! ここからは、かつてアンディ・ラウ劉徳華の「ケロケロけろっぴ」ステッカーやぬいぐるみだらけライトバンを目撃し、いつぞやの金像奨の時に目星をつけた、荷物搬出口が近いですよ!
無理かもしれないけど、トニー・レオン梁朝偉が出てくる所を一瞬でも目撃できるかも!
吸い寄せられるように、地下道に一旦下りて、搬出口に近い出口からまた上がってみる。
……あらら、搬出口の真向かいの道路ではなく、搬出口脇の、鉄柵の前に出ちゃった。
鉄柵の内側にいる警備員の監視のもと、バックステージパスを首にぶら下げたスタッフがひょい、ひょいと出入りする。何と、今年の東京帰りのトニーが着ていて日本ファンの微苦笑を誘った、アディダスの中国ジャージを着た兄ちゃんもいる! 日本で買ったのか? え?
しかし、この鉄柵の外の場所になら、誰の何のおとがめ無しにも、いられるみたいだ。
現に、出待ちらしい女性の姿が……あらら?
あっらー! 思わず声をかける。
香港人のトニーファンで、以前「インファナル・アフェア3/無間道3 終極無間」を一緒に観て深夜の香港島を共にさまよいトニーについて語り合った、Iさんでないの!
「お久しぶり〜!」と再会を喜んでいると、我々の背後にも次々と見覚えのある香港トニーファンの皆さんが集まってきた…何人かは「サウンド・オブ・カラー/地下鐵」の香港公開イベントの後、「花様年華」ロケ地の「金雀餐廳」で一緒に食事をした…あああっ韓国の世話役的存在のお姉さん(広東語かなりできる)も! 広州の熱心な女の子も!
……顔見知りの日本人ファンも2人、発見してしまった…。
「どこのホテルに泊まってるのぉ?」と聞かれ、今回は一人旅で短期で、スケジュールが詰まってるのであまり教えたくなかったんだけど、「安かったんで、旺角と油麻地の間の辺鄙なところにあるホテルで…」とつぶやくと「もしかして、SARSが最初に発生したホテルですか?」とかクスッと笑われた。うっ…あまりそういう言い方、されたくないけど…。
そうこうしているうちに、ナディア・チャン陳松伶、ジジ・リョン梁詠[王其]、アンディ・ホイ許志安らが搬出口から出て来て、真正面にいるらしいファンの歓呼を受けて手を振りながらまっすぐに迎えの車へ。我々の方からは横顔しか見えないなあ…。
と、一人のちょっとすっきりとした顔立ちのイケメンが出て来て外の様子を見回し、また建物の中に入っていった。
あれ? いまのイケメン、どこかで観たことあるような…と思ってると、韓国ファンサイトの管理人さんが、再び出てきたイケメン君に声をかけた。
え?え? ええええーーー!
数人の男女スタッフにガードされ、紺ヨットパーカー姿のトニーが、体育館から出て来た!
まっすぐ行けば迎えのライトバンにたどり着くのに、イケメン君が「トニーのファンがそこに集まってます」と伝えてくれたのか、なぜか直角に曲がって、こっちに皆で来る!
来る! 来たよ! 鉄柵の向こうで立ち止まり、あのくるんくるんとした小動物のような瞳で、ゆっくりと皆を見回してる!
まるで、自分のファンがここに実在する、ということを噛みしめるかのように…。
どんな感慨が、たった今、大役を終えたばかりのトニーの胸中にあったのだろう…。
見えたか見えなかったかわからないけど、とにかくnancixは人垣の後ろから、両手の親指を立てて大きくうなずき(よかったよ! 日本人が聞いてもあなたの歌はよかった!)という仕草をしてみせた。
ファンの誰かが「TONYーーー! 多謝!」と叫び、たちまち皆が「TONY! Thanks!」「TONY! 謝謝!」と、口々に叫び始めた。耳をつんざくような大声ではないけど。
わざわざ鉄柵のそばまで来てくれたこと、だけではない。
今、ここに、同時代に実在してくれていることの感謝。
無人のステージに哀しい叫びをいくらあげても、誰も受け取ってくれないなんてことにならない、感謝。
国籍も年齢もバラバラの誰もが、それを噛みしめていたのかもしれない……。
トニーは両手で精一杯皆に向かって手を振り、途中から香港人お得意のグーパーバイバイもしてくれ、スタッフと共に迎えの車に乗り込んで去って行った。
はぁぁああぁぁぁ……。
脱力。
とたんに咳が連続で出て来て、もう体力的に限界だと解った。
他のトニーファンは旧交を温めるためにみんなでどこかに行くのかもしれないけど、もう自分は無理。熱出しちゃう。
日本人ファンの一人に「…咳が辛いから、ホテル帰って寝るわ…」と言い置いて、ほたるのだめの足取りでKCR改札口へ。
まだレスリーファンの哀しい叫びが耳の底でこだましていて放心状態だったせいか、逆方向への列車に乗ってしまった。
乗客が皆降りるのでふと気づけば、そこは終点の尖沙咀東駅じゃないか!
慌てて逆方向のホームへ。
結局2駅乗り、やっと旺角東駅にたどり着いた。
はぁぁ、もう絶対ぜったい、寝る。熟睡して、今夜は結局食べなかったパンを朝食にして、昼の飮茶を一緒にと約束しているSちゃんとJさんとの待ち合わせ時間までホテルでゆっくりして、元気が出ればブログでコンサートのレポートを書いて…と、考えながら自室へ。
ノートパソコンの電源を入れるか入れないかで、部屋の電話が鳴り出した。
へっ?
こんな夜更けに、なぜ?
まさか、日本の自宅に独り残る老父の身に、何か?