2004年10月24日

王家衛オールナイト@渋谷02

 オールナイトの上映作品は、
「欲望の翼」(1990)
「天使の涙」(1995)
「ブエノスアイレス」(1997)
「花様年華」(2000)
 の4本。

 個人的には「恋する惑星」が入ってないのが「2046」の予習復習と考えると残念でならないのだが、今回はね。「天使の涙」を加えてこそ、渋谷で見るのにいかにもふさわしいラインナップとも言えるんじゃないかな。

 「欲望の翼」をスクリーンで見るのは、本当に久しぶりだ。レスリー追悼上映では、映画館で、仲間内で一緒にすすり泣くという行為がどうにも肌に合わなくて「君さえいれば〜金枝玉葉」だけを鑑賞したのだ。あんなにキュートな結末でも、すすり泣きの声があちこちから…。
 (ピーターさんはこんな状況にするために作ったんじゃないのになあ。観客を笑わせ、楽しませようとして作ってくれたのになあ)と内心べそをかき、ため息をつくしかなかった。

 「欲望の翼」は、黒地に緑の文字から始まる。…まだ全然国内では知られてなくて、関西私設応援団員としては、ポスターを張ってもらえ、チラシを置いてもらえる場所探しに苦労したなあ。日本版ポスターやチラシ、無理矢理緑の熱帯密林の上にスターをコラージュしちゃって、香港版横長ポスターの「皇后飯店に集った若者群像」の雰囲気を壊してしまい、配りながらも好きになれなかった。ずいぶん後になってから、香港版の図柄のポストカードを入手して、本当にうれしかったっけ。
 で、つくづくレスリーとマギーの、情事の後の汗ばんだ肌のツヤツヤ感に見惚れた。レスリーって、この作品ではこんなに低く抑えた発声をしてたっけ…。
 最初に見たときは(なんつーイヤな男だ! 女の敵!)と憤慨したものだけど、今見ると逃げ隠れせずにきちんとマギーに望みはないと言い渡しているし、不良青年にはとても見えないぐらい、態度が毅然としている。
 やっぱり60年代香港でブイブイ言わせていた実在のリーゼント頭の不良=阿飛じゃなくて、ヨディ旭仔は王家衛の頭のなかにだけ刻まれた存在なんだ。

 スクリーンで見て、改めて気づいたこと。
・レスリーが一人暮らししているアパートメントの家主(管理人?)は、サロンを巻いた家族持ちマレー人。
=「花様年華」でシンガポールの周慕雲が暮らす安ホテルの家主も、サロンを巻いたチビのマレー人。
=「2046」の周慕雲が白玲小姐に語るシンガポールの思い出は、サロンを巻いたチビのマレー人家主。(新聞記者だったんなら、もうちょっとましな街のお得な情報や美観スポットを若い女の子に教えてあげられんのかー!)
 60年代のマレー人って、管理人や家主で生計を立てることが多かったんですか、王家衛センセイ?

・アンディが船員になり、フィリピンで投宿するとき、フロント係がくれるルームキーは「206」。しかしアンディが実際に泊まった部屋は「204」。
 このミス?は当時も映画雑誌が取り上げるなど、話題になったものだ。nancixのようなシネフィルに、世界のどこかで指摘された王家衛の深層心理に「204」と「206」の数字が刻み込まれたとしても、おかしくない……?
 間違いといえば、やっぱり豪雨の中でカリーナ・ラウとジャッキー・チョンがもみ合うシーン。
 ジャッキーにぶたれて盛大にカリーナのヘアバンドが飛ぶのに、次の瞬間ヘアバンドは彼女の頭に収まっているのだった……。
 まあこういうところが、香港で見たnancixに(何だこれ。香港映画にあるまじき、ATG作品か自主制作映画みたい…林海象らの方がマシ)と思わせたのだよね…。
 「天使の涙」は、やっぱり好きになれない。
 出てくる登場人物全部が、はた迷惑極まりないし「恋する惑星」への自嘲と悪ふざけが過ぎる。
 やりすぎてんこもり、の香港映画の悪癖が、一気に吹き出したような。
 何より、金城君がブタにまたがりマッサージしても、クスリとも笑わない東京もんの観客がイヤさ。
 大阪のテアトル梅田では、香港人ほどではないにしても、大いに笑い声が響いたのにな。
 地に足がついてる、まぎれもない生活者の金城パパこと陳萬雷さんや、焼鳥屋「五味鳥」ご主人の斉藤さんの存在が救いだった。
 陳萬雷さんは重慶マンションの管理人だったのに、この映画のせいで香港電影金像奨の助演男優賞にノミネートされちゃった。その後も「花様年華」(酔って人事不省になる麻雀仲間役)や「地下鉄」(トニーの結婚相談所に息子と一緒に怒鳴り込んでくる父役)に出演している。

 「ブエノスアイレス」。
 スクリーンで見て初めて、レスリーが安アパートメントの床をせっせと拭く(「欲望の翼」ではカリーナが、「天使の涙」ではミッシェル・リーが床を拭く。いい女が胸も見えそうにかがみこむ姿態に、王家衛は欲情するのか)シーンで、床に血の痕がこびりついているのに気づいた。
 当初の設定にあった、トニーがナイフで自分の喉を切り裂いてレスリーの目の前で自殺を遂げた後、という設定で撮影したのか。そのシーンの一部は、発売されたばかりの日本版ブエノスアイレス 摂氏零度ブエノスアイレス 摂氏零度」で見ることができる。
 いま見ると、トニーはそんなにとんがってないし、レスリーの肩に頭をもたせかけてるのがなんとも可愛いよなあ…。
 そしてこのとき撮影助手を務めていた、実在のウィン何寶栄さんは、どこに行ってしまったのか。
 トニーの写真を貼り付けたりされてしまった自分のパスポートに、税関で偽造の疑いをかけられて、アルゼンチンを出国できなくなったとか(笑)。
 同じ撮影助手だったファイこと黎耀輝さんは「2046」でもカメラマンとして活躍しているというのに。

 そして、少なくとも首都圏ではDVDレンタル回転率が急上昇しているのではないかとこっそり想像している「花様年華」。
 nancixにとって最も完成度が高く、きちんとまとまって過不足ないのがこの作品のような気がする。
 せっかく公開されたばかりの「2046」よ、すまぬ。
 「花様年華」は出演者がトニーマギーだったから、せっかく撮った「90年代の物語」パート(ここですでにトニーはコンビニ店員として、エプロン姿にヒゲを生やしている…「2046」よりもっとスケベチックだー)をばっさり全部切ることができたんだろうけど「2046」は、そうはいかなかったんだろうなあ…。
 上海サイドの要求、日本サイドの目論見…。
 ウィリアム・チョンさん、本当にお疲れさまでした…。

 「2046」は日本で壮大にコケるだろうけど、その埋め合わせに、カンヌでだけ上映されたらしき短編「花様年華1990年代版」パートをDVD化してくれないだろうか。何年もずっと待ってるんだけどなあ。
 え? マニアック過ぎて、全然埋め合わせにならない?
 失礼しましたー。
posted by nancix at 05:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | 2046
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