2007年09月09日

ベネチアで受賞その後

 それでは、ベネチア国際映画祭で見事金獅子賞(最優秀作品賞)を獲得した「色、戒」と、一躍同映画祭の主役と化したアン・リー監督についての話題を、幾つか取り混ぜて。
受賞アン・リー04おちゃめ
 トロフィーを掲げ、おちゃめにはしゃぐアン・リー李安監督。このおちゃめさは、米国で培ったものか…?

 アン・リー李安監督は、カナダのトロント国際映画祭で、同地でのプレミア上映が3分の2まで進んだところで、あるスタッフが駆け寄って来て開催事務局からの授賞式出席要請を耳打ちしたので、すぐに上映会場を後にしてベネチアへ向かったのでした。

 トニーと湯唯は、アン・リーの機密保持がとても巧みだったと話します。トロント映画祭のプレミア上映会から突然失踪し、祝賀パーティーにも姿を見せなかったので、彼らは監督の不在をとても奇妙に思いました。しかし製作会社スタッフが「アン・リーは体調を崩しまして、自室で休んでおります」と言い訳し、それを信じるしかなかったのです。まさか半日のうちに、大西洋を再び越えてベネチアに戻り、授賞式に姿を現わすことになろうとは、彼らにさえ思いもつかなかったのでした。

 そのアン・リー、あまりにベネチア行き決定が急すぎて、カナダからベネチア行きの航空機チケットが入手できず、とうとう映画祭実行委員会が専用機をチャーターして、何とかかんとか授賞式に出席できたのでした。まさに、国賓並みのVIP扱い……。

 授賞式の1時間前に、アン・リーは無事に、満面に笑みを浮かべてベネチアのリド島、レッドカーペットの上に再度出現。「一昨年(の「ブロークバック・マウンテン」の時)と同じように、実行委員会から出席要請の通知を受けたので、私は戻ってきたんだよ。何か賞をもらえるか? それは解らないなあ」「賞をもらいすぎて嫌になることなんかありえない。特に今回は中国人に見てもらうために撮影したのだから、私にとっては一大挑戦だよ」とマスコミに話したそうです。(? 「グリーン・デスティニー」は西洋人にしか見せないつもりだったの?)

 この映画の後期処理中、香港でアン・リーは仕事に根を詰めすぎて、何度か眩暈を起こし倒れそうになり、医師の診察を受けたほどだったといいます。また授賞式の後の記者会見で、彼は「中国での撮影は非常に辛かった。人生の学習の旅だったとも言える。しかし私の好奇心と達成感は成就できた」とも語りました。
 常々、「華人世界で映画を1作撮ることは、米国で3作の映画を撮るくらい心身を削ることで、とても大変だ。1作の中国語映画を撮り終わると、米国に戻って息をつかないととても体力がもたない」と語っているという監督。特に今回は時代背景と題材の関係で大変な思いをして、過労死寸前まで心身を削ったのだし、受賞は格別に嬉しいことでしょう…。
受賞アン・リー03

 同時に、最優秀撮影賞を獲得した撮影監督のロドリゴ・プリエトについて、中国で6ヶ月もの撮影期間を共に過ごしたなかで、プリエトについて唯一頭を痛めたのは、彼が「ここ(中国)では正統な味のメキシコ料理が食べられないよぉ」と泣きついてきたことだと語りました(場内の記者達は爆笑)。
ロドリゴ・プリエト01
 プリエトはすでに「ブロークバック・マウンテン」で米国カウボーイを描き出し、また中国で初めての撮影だったというのに40年代の上海の少女をも撮ることができ、「天才中の天才」とアン・リーは絶賛しています。アン・リーは7人の審査員(兼映画監督)に丁重に「プリエトを使うべきです、プリエトを使うべきです」と推薦したそうです。そしてこの、深い誠意の持ち主である撮影監督について語るのに「もしもあなたの心がそこにあるなら、どんなことでも成功させることができます」という言葉を引用し、記者たちに熱烈な拍手を浴びたのでした。

 そして今月末に「色、戒」が米国と中華圏で無事に上映されれば、来年の米国アカデミー賞外国語映画賞に「台湾代表作品」としてノミネートされるわけで、また監督に世界から取材申し込みが殺到しそう…どうか倒れないで〜!

 トニーは「一度組んで仕事をして、以心伝心の仲になれた監督とは、また組みたい」となついてるんですからー!

 台湾行政院新聞局長の謝志偉氏は、今回のアン・リー作品の受賞を「台湾人の誇り」と称し、「民主自由国家では芸術は自由に創作できまた発展できること、国際的に花開く結果を得られることの表れだ。台湾の自由民主的な芸術創作環境が、アン・リーのような優秀な映画監督を培養できるのであって、台湾が戒厳令下にあった時代には不可能だったであろう」と述べました。

 また、台湾の新進気鋭のリン・ジンジー林靖傑監督作品「最遙遠的距離」もベネチアの「国際映画批評家週間」で最優秀作品賞を獲得したことにも触れ、新聞局としてすでに両作品に祝賀の電報を打ち、今後も台湾映画の推奨及び海外へのアピールに努力を継続していくと表明しました。また新聞局の参事によると「色、戒」と「最遙遠的距離」は、「映画事業と映画に従事するスタッフが国際映画祭にて受賞をした時は、奨励金を出す」という規定により、新聞局が出す奨励金の対象となるということです。
 新聞局は9日、正式に「色、戒」が台湾代表作品として、米国アカデミー賞外国語映画部門にノミネートされることを発表しました。……米国でNC-17に指定された時、あんなに性的描写の多さについて物議を醸したことが、まるでウソのような…(^_^;)

 さて、アン・リー監督がステージ上で金獅子トロフィーを受け取り、喜びのコメントをしているその時、トニー・レオンと湯唯はすでにトロントからベネチアへ、お祝いの電話をしていました。アン・リーがステージから下りてまずしたことは、すぐに彼らに折り返し電話をかけて、吉報を伝え喜びを分かち合うことだったのです。トニーと湯唯は、電話の向こうで子供のようにはしゃいでいたとか…。アン・リーはとても誠実に「本当に、トニーあるいは湯唯が男優賞か女優賞を受賞することを望んでいた。彼らはこの映画のために多くを犠牲にしたから」と話しました。アン・リーは笑いながら言いました。「スクリーン上の湯唯は細やかに感情を表現するが、素の彼女は時にはとても荒っぽいんだ。私は映画撮影最後の日に、また彼女を諭したよ。しかし私も内心でははっきりと知っていたんだ、彼女の代償はとても大きかったとね」。

 湯唯は「色、戒」の受賞を知って嬉しそうに「私はほんの少し貢献しただけだわ!」と笑いました。トニーはアン・リーに代わり、映画に代わって喜びを表現しました。「受賞は、この映画が単なる情欲があるだけではなく、背後に深い意味合いを宿していることを説明しています」と。

 確かに「色、戒」の受賞は、ある意味でトニーに「解脱」を獲得させたことでもあるのでした。みんな真面目にこの映画の意義について論じ始め、もう彼の「玉子玉子問題」(赤面…)には触れなくなるからです。

 ただ、ベネチア国際映画祭の規定により、作品が金獅子賞(グランプリ)に輝いたことで、自動的に男優賞、女優賞からトニーと湯唯は外されることになってしまいました。これはアン・リー監督にとって本当に残念なことだったようです。

 チャン・イーモウ張藝謀審査委員長は、審査団は過去の情況にとらわれることなく、ただ今年の作品に対してだけ協議を重ねたと説明しました。審査の過程では意見の対立もありましたが、「色、戒」については審査員一同の全員一致で、金獅子賞を与えることになったとも言っています。意見が対立したのは審査員特別賞に対してであり、ついには映画祭ディレクターのマルコ・ミューレルに電話をかけて相談し、彼の同意のもとで、慣例を破って米国映画「アイム・ノット・ゼア」とフランス映画「ザ・シークレット・オブ・ザ・グレイン」を同時受賞ということにしたのでした。
授賞式で拍手するチャン・イーモウ
 ↑授賞式で、アン・リーに対して拍手を送るイーモウ。

 さらにチャン・イーモウは、
 「中英文造詣好、貫通中西影壇者、李安是第一人(中国語圏と英語圏での造詣が深く、東西の映画界を貫いて活躍できる映画人として、アン・リーは第一人者だ)」
 「『色、戒』は他の多くの参加作品と比べても、さらに完璧な映画だ。アン・リー監督は多くの国の映画資源(出資者、俳優やスタッフなどの人材、美術やセット建築、時代考証、撮影技術などを含む)をうまくまとめ上げることができた。それも審査委員会の一致した評価を勝ち取れた原因だ」
 と述べたそうです。

 ちまたでは、金獅子賞を2度受賞するという栄誉を自分以外の中華系監督に与えることは、チャン・イーモウはしないのではないか、却って足を引っ張る側に回るのではないかと、うがった見方も出ていたのですが、さすがにそんな肝っ玉の小さいことはしなかったのですね…。
 実はnancixも、イーモウ監督自身がトニー・レオンを起用したことがあり、同じ華人監督であるからこそ点が辛くなるのではないか、身びいきと西洋の映画人に思われることを怖れて、作品賞はヨーロッパ系の作品に与えてバランスを取るのではないかと案じていたのですが…取り越し苦労でありましたよ。まあ実際、金獅子賞発表の際に記者席からブーイングが出たと書いている日本のニュースサイトもあるしね…。

 受賞後の記者会見で、中国人の記者は思わずアン・リーに「あなたはチャン・イーモウがあなたの『貴人(貴重な人物?)』だと思いませんか?」と問いかけました。この敏感な問題に直面して、アン・リー監督は傍らに座っていたチャン・イーモウを振り返り「私は、彼がいつも審査委員だったらなあと望みますよ」とユーモアたっぷりに答え、いつもは気難しい顔をしているイーモウも、思わず破顔一笑したのでした。

 アン・リー監督は今月末に、湯唯らを伴って台湾に凱旋帰国?してプロモーション予定。自ら台湾の観客の反応を見たいと希望しています。配給会社は「色、戒」本(台湾聯合報に一部が掲載されていたもの)を出版し、プレミア上映会入場券2枚を付けて5日から台湾全土の誠品書店で販売中です。このチケットを入手すれば、監督と俳優たちが出席するサイン会に参加できるというのですが…中華圏では、このようなイベントは「予定は未定」(^_^;) 「赤壁」撮影に戻らないといけないトニーが、サイン会に出席できるかどうか、わかりませんねえ…湯唯だけを書いているニュースサイトもあれば、トニーの名を挙げているニュースサイトもあります。

 また、アン・リー監督と台湾の配給会社・博偉側は来年、台湾で総統選挙が行われるために、プレミア上映会を政治的に利用されることを恐れ、政治家や政治団体に所属する人物とは何とかして一線を引いておきたい考えです。なにしろ「ブロークバック・マウンテン」のプレミア上映会では、ある陣営の政治家が配給会社に「"映画産業の振興"について一席ぶちたい」と申し入れたものの、実際にステージ上に立つとまるで政見放送のようなスピーチを始めたというのですから、頭が痛いところ。アン・リー監督は台湾では、記者会見、プレミア上映会、及びファン向けのサイン会にだけ出席すると、あらかじめ活動を限定する発表をしています。(でないと、ヒートアップした選挙関係者に拉致されかねないから…台湾政治家の血気盛んぶりは、時折り日本の情報番組でも報じられる、国会での乱闘や街頭演説での衝突ぶりで皆さんもご存知の通り…南国の皆さんはめっぽう気が荒いのだ(^_^;))
posted by nancix at 21:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | 「色、戒」特集
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