
ちょうど1944年、ナチスドイツ占領から解放される寸前のオランダを舞台にしていて、主人公はレジスタンスに身を投じながらも敵のナチスドイツ将校(ただし切手の価値をよく理解し収集し、元は地理学者だったという文人型)を愛してしまい、総本部に潜入してのスパイ活動のなかで苦悩する若きユダヤ人女性。
いわば「ラスト・コーション/色、戒」(仮題)西洋版とも言えるので、興味を持っていたのです。
「この愛は裏切りから始まる」というキャッチコピーなんて、そのまんま「ラスト・コーション/色、戒」に使えそうだし。
約25億円という、オランダ映画ではありえないほど巨額の製作費を出資したのは、オランダだけでなく英国、ドイツ、ベルギーなど多国籍なのも、中華圏映画と共通するし。
今回の試写会は、以前からファンの森川みどりさんと、神戸大学大学院経済学研究科教授で外務省に出向、ベルギー日本大使館への赴任が決まっている奥西孝至さんの対談付きで、得をした気分。この奥西孝至さんの談話は、4月6日の朝日新聞大阪本社版夕刊に記事広告スタイルで載るらしいです。
森川さんには、ぜひとも「ラスト・コーション/色、戒」大阪試写会でも軽妙に知的に司会進行役を務めていただき、アン・リー監督やトニーから貴重なエピソードを引き出していただきたいものです。
オランダの映画事情には疎かったのですが、同国の総人口は約1632万人。香港は約704万人ですから、2倍以上ですか。しかし北海に面した地理的事情、植民地貿易で繁栄してきた歴史的背景、思想、信条、宗教、人種を問わず受け入れてきた寛容さ(おかげで香港マフィアも麻薬取引と売春で儲け…モガモガモガ…)のためもあり、上映される映画はハリウッド映画が多く、吹き替え無しの英語映画にオランダ語字幕付きで上映されることがほとんどという話でした。
この映画の出演者もオランダ人だけでなく、ドイツ人、カナダ人など多彩で、台詞も英語、オランダ語、ドイツ語、ユダヤ人の間で話されるヘブライ語?など。そのところは、王家衛映画などに共通しますね。しかもヒロインのラヘル(英語ではレイチェル)=エリス役のカリス・ファン・ハウテンは、ナチスドイツ将校ムンツェ役のセバスチャン・コッホと恋仲になり、いまや熱々カップルなんだそうで…何もプライベートまで国際色豊かにならんでも。
トニーと、ヒロインのタン・ウェイ湯唯は大丈夫だったよね…(^_^;)
実を言うと、監督が、ハリウッドで「氷の微笑」「ロボコップ」「トータル・リコール」、栄えある?ラジー賞に輝いた「ショーガール」、「スターシップ・トゥルーパーズ」「インビジブル」のポール・バーホーベンなので、実を言うと好みに合うかどうか、危惧していました。
「氷の微笑」「ショーガール」のエログロバイオレンスのコッテリぶり、アクの強さに、辟易する淡白な日本人なもんで。「スターシップ・トゥルーパーズ」「インビジブル」はもう予告編だけでおなか一杯になり、観てません。
で、やはり危惧はある程度当たり、いやもう「グレタ・ガルボかイングリット・バーグマンか」と森川みどりさんが紹介した色白美女、カリス・ファン・ハウテンが、脱ぐぬぐ!
ホントに濃い茶色からブロンドに髪色を変えると、見違えるほど艶やかに華やかになれる女優です。

それなのに。
ワンピースの裾べろーーんで素足を太ももまでおっぴろげー。
○っぱいべろーーーーん。
髪だけでなく別の箇所の毛も薬品を刷毛で塗って脱色しちゃう、それも男の前で!(最初は何をして「染みる〜!」と悲鳴挙げてるのか、気がつかなかったよ…(ーー;))
全裸も辞さない大胆さ。彼女だけじゃなくて、オランダで助演女優賞を獲得したというロニー役のハリナ・ラインも。
どんな濡れ場でもおっぱ○を死守する中華圏の女優を見慣れていたので、もークラクラいたしました。
さすがは"飾り窓の女"などの売春が2000年から合法化されたオランダ……って、ちょっと関係ないか。とにかく、あまりに大胆にスパッと全部見せしちゃうと、イングリット・バーグマンの冷たくツンと澄まして自分を律している中の、ぞくぞくする色気やほのかな媚が生まれないのね、と改めて痛感。
ためらい、恥じらい、じらし、誘いかけ、また突っぱね…といった男と女の駆け引きの方が、妄想が膨らんでくれるんだよなあ。
そうそう、この映画はPG-12です。お忘れなく。
まあ、ラヘルことエリスは戦前まで英語で歌っていた歌手で、中産階級らしい家族と離れて女一人で自活していたという設定なので「アンネの日記」のアンネ・フランクや幼いオードリー・ヘップバーンよりもよほど自分の欲望に正直になれた、因習や女らしい慎みのタブーに縛られず、女の武器をためらいなく使える、「貞操? 何ですかそれ? 愛すればこそ、愛を全身で表現するのよ」とばかりに性に開放的な女性だったって設定なのでしょう。嫌悪感を持つ相手には決して肌を許さないので、蓮っ葉、ふしだらとまでは言いませんけどね。
あんまりこんなことばっかり書いていると、ロクなトラックバックが来ないので。
確かにハリウッドで長年苦労しただけあって、観客にとても解りやすく人物を紹介してくれるし、敵味方の関係を二転三転させてスリルを盛り上げる手法は見事。話運びのテンポが実にいい。銃撃戦もある、待ち伏せもある、カーチェイスもある、危機一髪の逃避行もある。2時間24分を飽きさせません。
ただ事前にパンフ(黒い封筒形式の箱に、綴じていないバラのページが入っています)の人物相関図で、誰がオランダ人で誰がドイツ人かぐらいは、確認しておいた方がいいかも。下劣でスケベな悪役将校、フランケン以外のリーアム・ニーソンorレイフ・ファインズ系ハンサムさんが、みな何となく似て見えてしまうんですよ。最初に登場する若者がとってもハンサム♪なんだけどなあ…。すぐに出番なくなるんだよねえ。レジスタンスの男たちもいい味出してるんだけどねえ…。彼らの描写がちょっと足りない気が。特にハンス・アッカーマンス(トム・ホフマン)の思想、主義、屈折の理由などを、あらかじめもう少し知らせてほしかったなあ…。前歴ではなく、どういう生い立ちの人間なのか、さっぱり解らない。
それに「シンドラーのリスト」のような叙情性には欠ける。深みがない。ポール・バーホーベンだから。

確かNHKの「映像の世紀」の白黒記録映画映像で看たと思う、「対独協力者」の女性たちが街頭に立たされ、髪をバリカンで刈られ屈辱を受けるシーンも再現されているのだけど、最も「対独協力者」だと周囲に思われたはずの二人の女性が告発を免れているので、いまいち深刻さが伝わってこない。ポール・バーホーベンだから。

収容所でヒロインが謗られ、あざけられ、上半身の服を脱ぐよう強要されさらに…っていうシーンも、ああこりゃ絶対に正義の味方の助けが来るよねと、観客に安心感を与えてしまうので「愛の嵐」のような頽廃と官能と倒錯の世界には突入しません(しても困る)。健全なスケベで終わります。ポール・バーホーベンだから。

数奇な運命をたどり過ぎ、最後は銃殺刑に斃れるある人物も、あっけなさ過ぎて拍子抜けしました。ヒロインなら絶対に救いの手が差し伸べられるのになあ。ポール・バーホーベンだから、男に愛がないのか!(愛があってもそれはそれで困る)。

「なぜこんなことを?」「金さ!」というやり取りには、拍子抜け…。
金儲けだけでなく、悪事には人を出し抜き騙しおおせるスリルや、歪んだ支配欲を満たせる愉快さ爽快さ、被害者への軽蔑などもあい混ざっているはずなんですがねえ…?
そして、あの決着の付け方。
いいのか。
それで本当にいいのかオランダ人? いやポール・バーホーベン?
いやもう、あっけらかんというか、
法の裁きを受けさせられない相手に、正義の鉄槌を下したんだからいいんだとあっさりと正当化してるというか。
要するに、思っていたよりも娯楽作、娯楽活劇だったのです。
実在したと言われる"ブラックブック"の扱い方次第で、いわゆるヨーロッパ映画の格調高い(でも観客によっては退屈と言われる)作品にもできた題材なんですが。
「ラスト・コーション/色、戒」は、全く逆ベクトルに魅力的な映画になっていればいいなあ。
いや別に、退屈で物語がわかりにくくてドンパチが全くない映画に、という意味じゃなくて。
人間の美しさ、愚かさ、優しさ、卑劣さと崇高さ、愛情と憎しみの表裏一体の不思議さ…を、ひしひしと感じ取れる映画になっていたら。
登場人物の感情が痛いほど伝わってきて、切ないほどそうするしかなかったんだと思えてならない、ような。
張愛玲の原作が素描のような短編小説だから、アン・リー李安監督がそれに何を付け加え、何をどう切り取って描くか、にかかってますね。
いつかは東西女スパイもの、なんて(え? ちょっと違うんだけどな…)と首を傾げるようなくくり方でもいいから(^_^;)「ブラック・ブック」「ラスト・コーション/色、戒」2本立て上映なんてのが実現するといいですねえ。
「ああ、東は東、西は西、この二つが交わることはない」なんてラドヤード・キップリングが詠ったのが、実感できるかもしれません。
ブラックブック@映画生活


