同胞の"この世の地獄"を前にして、虚構の地獄をうごめく組織内の男たちについてどうこう言う自分が不遜に思えてきたので、今回はちょっと気分転換。ある方に薦められ、通勤中に読み進めてきたのがこの本です。やっと月曜、読破しました。
「同じ釜の飯 ナショナル炊飯器は人口六八〇万の香港でなぜ八〇〇万台売れたか」(中野嘉子+王向華、平凡社)だ。
実は映画「花様年華」を見たとき、劇中に出てくる「日本製の炊飯器」がとてもとても気になった。我が家にもあった初代炊飯器にとても似ているような気がしたし、そういえば炊飯器を発明したのは日本だっけと再認識させられたし。
香港人の友人Vちゃんのお宅にお邪魔したときも、厨房にお邪魔して興味深く炊飯器を見せてもらった。今は家族がカナダに移民したり結婚して独立したりで一人暮らしの彼女だが、いまでも3人家族用の大きめ炊飯器を使っていたのである。中華式おかゆも炊ける、ライトグリーンの派手はでカラーのものだった。ナショナルこと「樂聲牌」のブランド品ではなかったけど。
そこで「プロジェクトX」の炊飯器開発物語の回も見たし、松下電器のHPでも炊飯器の歴史を検索したし、大阪府門真市にあるという「松下電器歴史館」に、1959年(昭和34年)に出来たという炊飯器の原型を見に行き、炊飯器のアジア進出・普及について調べに行こうかと、一時真剣に考えたぐらいだ。門真市って、神戸市からとっても遠いんだけどね…。
しかしnancixと同じ発想の研究者が、ちゃんとこの世に存在したのである。
いや、同じではないけど、この本にはちゃんと「花様年華」の大家さんとマギーの会話の台詞が引用されているのである。
全体的には"プロジェクトX書籍版"という感じだけど、松下電器とパートナーシップを取った香港人の蒙民偉さんの凄腕、とっぴで豊富なアイデア、関西弁でまくし立てるその猛烈ぶりが、この本の大きな魅力になっている。
蒙さんが香港人で、香港の複数の大学に自分の名前のついた学舎がある名士といえど、蒙さんの両親は長崎華僑。その一族の流転の歴史もきちんと描いている。
こすっからいようで、さんざん価格や製品の質や輸入数量についてやり合ってきた日本側の元担当者の墓参りに行きたい、と言い出す人情味。
あの"経営の神様"・
SONYの盛田会長に料亭に招かれ海外代理店契約を誘われても、正式に契約書を交わしたわけでもない松下電器への義理を慮って断る、情に厚いところ。
敵に回したらとんでもなく怖いけど、味方につけることができたらこんなに頼もしい相手はいない。
見た目は、腹の出たおっちゃんなんだけどね。
でもまあ、相手が関西の松下電器だから、こんな破天荒で無茶な要求をしてくる香港商売人でもマジに付き合ったのかもしれない。東京の、表面だけ取り繕いたがるメーカーだと、まず付き合い切れないだろうなあ。関西でも、生真面目・実直で外聞をやたら気にするS社だとダメだったかもしれない。
この本、実は「インファナル・アフェア」迷にとっても興味深い箇所がある。
他でもない、松下電器が1991年に満を持して、日本と同じ名称「画王」として売り出した音声多重テレビのことだ。
「インファナル・アフェア2」のDVDを見直していたら、ヤンパパの暗殺に成功した青年ラウが、マリー(カリーナ・ラウ劉嘉玲)に会いに行くシーンで「画王」のダンボール箱を発見したのである。
タイトルバック直後、青年ラウは倉庫らしき通路を抜けて行くのだけど、その通路の両側にぎっしり積まれている段ボール箱に、くっきりと「画王」の文字が書かれているのだ。

ダンボール箱の文字に注目。

「画王」ダンボール箱の間を進む、青年ラウ。
この本によれば、1991年5月に、香港で「画王」がデビューを飾ったとあるから、91年7月14日のヤンパパ暗殺のその夜に、香港某所の倉庫に「画王」があってもちっともおかしくない。
サムボスとマリーのやることだから、密輸品か正規品かは謎ですが。
アンドリュー・ラウ監督もしくはアラン・マック監督が小道具に指定したのか、小道具係さんのアイデアなのかもわかりませんが、nancixは舌を巻きましたよ。ああ、こういうことも監督に質問したかったなあ。
同じ釜の飯 ナショナル炊飯器は人口680万の香港でなぜ800万台売れたかは、本来は香港大学出版社で出版された中国語版「由樂聲牌電飯[保/火]而起 蒙民偉和信興集團走過的道路(全てはナショナルの炊飯器から 蒙民偉と信興グループがたどった道のり)」(2003年10月発行)が前身だった。ということは2003年10月1日に公開された「インファナル・アフェア2」スタッフが、時代考証のためにその本を買ったということはありえないか…。それほど音声多重方式全部入り「画王」の香港登場は、香港人にとって画期的で忘れがたい、時代を象徴する事件だったのだろうか?
「インファナル・アフェア」シリーズの全篇を通して、携帯電話やスマートフォン(日本ではなかなか普及しないが)、CLIEなどのPDA、GPSを利用した車両追跡、無線LANカードやCD-Rなど、日本人にもおなじみのハイテク機器が小道具として有効に活用されている(一方では、モールス信号なんていう前世紀の遺物こそ最も活用されているとはいえ)。比較文化論研究のセンセイ方が、そこんところをわかりやすく我々にも教えてくださると嬉しいんだけどなあ。
ちなみに筆者の一人、王向華先生とは、かつて香港オタクにバイブルのように崇められ、トニーも世良田のり子さんのインタビューを受けたことがある月刊「香港通信」という日本語雑誌で、ひし形の大学帽を被り、黒マントを着てポーズをとっていたディクソン・ウォン先生その人だった。あんな"いちびり精神"、関西人しか持ち合わせないと思っていたら…さすがは香港人である…。
ディクソン先生、今では「日本的企業文化の社会人類学的研究 ―― 社外/社内コミュニケーション戦略を中心に」なんて講演を日本の大学で行ったり、2001年度に大阪の国立民族学博物館で館内研究員になられたりされてたんですね。全然知らなかった…_| ̄|○
香港で一度だけ、夜更けに「香港通信」編集部にお邪魔したことがあったので、余計に感慨深いです。そのときにお話を聞いた吉田一郎編集長は、日本に戻って97年に著書「香港街伝」などを出した後、どこいっちゃったんだろう。
さいたま市長に立候補し落選したって本当ですか…?
あ、あった、まだ「さいたま市長選 立候補者」にご尊顔が…。
いやはや、人生いろいろ。



Many thanks for writing your comments on our book. I am Dixon Wong. I am going to give a lecture at Waseda University on 11 of July. I would like to meet you in Tokyo if you have time.
Best regards
Dixon
Wow! Very Thanks Your comment!
11 of July....Monday...!
I wish to go to Tokyo...If I have time, I would like to meet you too!
I send my very best to you and MS.nakano.
Best regards
nancix
I am sorry that I did not realize that you are living in Kansai area when I sent you an email message. Let us meet when I have a chance to visit Osaka or when you visit Hong Kong. The reasons that I wanted to meet you were that I am very impressed by your website on Tony Leung and I wanted to ask you about Hong Kong movie culture in Japan because I am going to do a research on Hong Kong culture in Japan.
Anyway, very nice to communicate with you and please keep in touch from now on. Can I have your email address? or you can send me an email.
Best regards
Dixon
Please use the e-mail form which I prepared.
http://tonyleungcw.com/mail/form.html
Your address isn't displayed on PC screen and others don't look at it.But I can know your e-mail address.I surely write e-mail to you.
Best regards
nancix
いやはや、インアフェに画王がでてくるなんて知りませんでした・・・。でも、音声多重放送導入は大事件だったし、それまでのテレビの値段が2倍もする画王が売れまくったもの相当な「事件」でしょう。だから、たぶん「おなかま」の中国語版とは関係ないって気がします。残念だけど・・・。
「おなかま」の中国語版とは関係ないですか…でも日本人迷には「おなかま」はとっても参考になりましたです。ますます香港映画ワールドに親近感が持てますもの…って、ハリウッド映画でSONYやPanasonicを見てもそんなに親近感は感じないけど…。
お二人の研究がますます成果を挙げて、日本と香港の架け橋になりますように。期待しています。