もうね、どうせニンゲン200年も生きられないんだから、映画館で映画を観終わった後になら、ミサイルだか大地震だかで即死しても悔いはないよ。ちょうど面白いところで不意に観られなくなったら、惜しくて無念で地縛霊と化してしまうかもしれないが。
てなわけで、雨の中、久々に大阪・梅田のOS名画座に足を伸ばしました。おお、シネコン通いを続けて足を向けないでいるうちに、いつのまにか付近は「シネマ横丁」と名づけられ、手ごろな定食屋や居酒屋が林立している。鑑賞後に一杯、が楽しめるではないか。来る道でサンドイッチ買わなくてもよかったかなあ。

本日の鑑賞は中国映画「玲玲(りんりん)の電影日記(中国名:電影童年または電影往事)」。シア・ユイ夏雨クンが主演、あの「花様年華」でも美しい、金の鈴を振るような歌声を聞かせた女性歌手のチョウ・シュアン周[王旋]がモチーフとして登場するという以外、ほとんど予備知識無しで見た。

あまりにも普通っぽくて屈託ない笑顔が魅力の夏雨クン。
"中国の佐藤隆太"的存在か? 佐藤クンが"日本の夏雨"なのか?
のっけからのけぞった。おおお、製作総指揮はもじゃもじゃ毛の怪人、香港のジョン・シャム岑建勲だよ! トニーファンは「ロボフォース/鉄甲無敵マリア/鐵甲無敵瑪莉亞」で、トニーをさしおいてツイ・ハークと組んで主役を張っていた特別研究員、というよりマッド・サイエンティストを思い出せ!
アニタ・ムイ梅艷芳が亡くなった直後には香港でコメントを求められていたし、昨年ぐらいの香港電影金像奨授賞式で見たときは、トレードマークのもじゃもじゃ頭もさすがに薄くなり、一部はほとんど無くなってしまっていたが…。

天安門事件の後、中国民主化活動を積極的に援助しかなり危ない橋を渡り中国政府に睨まれ、香港の"中国回帰"後の97年以降はいったいどうするんだろうと他人事ながら心配したものだが…。中国電影人らとネットワークを築き、ちゃんと商売できているんだなあ。安心、安心。
製作には香港の俳優兼監督のイー・トンシン爾冬陞も「デレク・イー」として名を連ねている。もう一人の製作・ホアン・チェンシン黄健新は、確か香港のジェイコブ・チョン張之亮監督と親交があり、昨年の香港電影金像奨で侯孝賢監督と一緒に、「黒社会」へ作品賞を与えたプレゼンターでもあった。東京国際映画祭で何度か作品を見た記憶もある。ワンアイデアを見事に膨らまして過不足無く、ウィットに富んだ等身大の人間ドラマを作る名手だ。ふむふむ。これは観て正解だったと思う。
物語は、北京の街角を意気揚々と自転車で走る、毛大兵(夏雨)クンの姿とナレーションで始まる。彼は一人暮らしで、ミネラルウォーターの配達というあんまり高給でもなさそうな仕事に就き、映画鑑賞が何よりの幸せという、将来のことも国家のことも深く考えていそうにないイマドキのお気楽な若者だ。そんな彼が、路地裏で積み上げてあった煉瓦にバランスを崩して接触し、煉瓦の山を倒して自分も転倒してしまう。
倒れた彼に、一人の茶髪ショートカットの活発そうな女性が近づき、いきなり彼の頭を煉瓦で殴りつける。彼女の目には涙が浮かんでいるように見える。
「なんで? どーして?」と問うひまもなく、毛大兵クンは昏倒。目覚めたら、医師と警官が病床の彼を覗き込んでいた。
医師らに事情を知らされ、傷害犯のあの女が派出所で事情聴取を受けていると聞いた毛大兵は、カッとなって派出所に急ぐ。おりしも、何を聴取されても一切応えない彼女に、怒った女性警官と相棒の男性警官は席を外していた。取調べ室に一人残された彼女に食ってかかった毛大兵は、逆にメモとアパートメントの鍵を渡される。「私の金魚にえさをやって!」とメモには書いてあった。彼女は涙さえ浮かべて、懇願するのだった…。
毛大兵は、彼女=玲玲のアパートメントに足を踏み入れる。その部屋の壁には一面、トーキー時代の中国映画の女優たちのスチールが張られ、家具らしいものは映画館の古いイス3脚、金魚の入った水槽、簡素なベッドだけ。そして8ミリだか16ミリだかの映写機がイスの前に置かれ、窓のない壁には手製の布のスクリーンが。壁際には古い名画のVCDが積まれ、まさに映画オタクの夢の一室なのだった…。
毛大兵はその部屋で、映画フィルムを模したデザインの一冊のノートを見つける。それは「玲玲の電影日記」ともいうべきもので、彼女の生い立ちや当時見た映画について綴ったものだった。それを読むうち、毛大兵はハッとする。何と幼い頃の自分が、そのなかに登場するのだから……!
というわけで、映画は、美人の誉れが高かった、辺境の炭鉱の町内放送アナウンサー=玲玲の母親・江雪華(姜易宏。時々、若い頃のチャーリー・ヨン楊采[女尼]に似てました。もっと美人顔かも。足長い!)と映画スターになることへの憧れ、その恋、予期せぬ妊娠・未婚の母となった顛末、病院の洗濯女として娘と貧しい生活を送る姿、玲玲の子供時代を長々と描く。小学生たちの学芸会的演技にちょっと飽きた頃、やっと気づいた。何とこの玲玲役の女の子、あの「PROMISE/無極」で、傾城の幼女時代を演じたクァン・シャオトン關暁[丹ミ]ちゃんじゃないのぉぉお! きゃわいーわけだ!
無邪気な笑顔とつぶらな瞳に浮かべる大粒の涙の威力は健在で、今回も困りまくり、悩みまくり、涙しまくりでロリコン男性のハートをわしづかみしてくれます。
いやーもうね、自分が彼女の同級生の男の子だったら、好きだからって優しくするより、背後からお下げ髪を引っ張ったり、筆箱を取ったりして泣かせたくなっちゃいます。「何するのよう、やめてよー!」と泣きそうになって抗議されたりしたら、たまりません。ホントのホントは「私、プロの子役なのよ! あんたたちとは違うのよ!」とツンケンするくらいでいてくれた方が、ロリコンの犠牲者にならずに健やかに育つと思うのですが。
毛大兵の幼い頃、小兵役の男の子がまた、キョーレツです。黒く汚れた鼻頭から鼻水垂らしてるのはメイクでしょうが、あの空きッ歯は本物でしょう。1本歯が無いし。中国子役業界にはまだ、歯列矯正は普及していないと見た。ニヒヒと笑うその顔が、天真爛漫というより小憎たらしい軽薄さ。訳もなくフィルム缶を奪って土手に放り投げた時は、「まだモノの価値がわからないからって、やっていいことと悪いことがあるんだー!」と、映画ファンとして一瞬殺意にかられました……いやその、ほんの一瞬です。でもまあ、だから子供は産まなくて正解でした……。
父に殴られ続け、義母に構ってもらえない彼に同情した玲玲の母親は、小兵を引き取ってしばらく3人で暮らします。未婚の母なのに、生活費どうしたんだろ…。玲玲と小兵は鉄道破壊工作隊ゲリラを描いた映画の真似で鉄道沿いで遊び、野外映画館を建物屋上から眺めて楽しい時を過ごします。しかし、小兵はついに父親に連れ戻され、祖父の家に行かされるのでした。
やがて母は、いつも親切だった野外映画館担当の映写技師パンさんこと潘大任と正式結婚。二人の間には待望の男の子も生まれます(産児制限・一人っ子政策は??)。しかし小兵の悲劇を知っている玲玲は、母の結婚と弟・兵兵の誕生を喜べず、家族のなかで疎外感を味わうのです。
このあたりで、玲玲役がタッチ交替。何だか睨んだ顔が怖い、樹木希林の娘の内田也哉子か、はたまた映画「お引越し」「血と骨」「隠し剣 鬼の爪」や向田邦子ドラマ末娘役の田畑智子に何となく似た少女になってしまいます。あああ、シャオトンちゃーーん(ToT)/
一家が食卓を囲むリビングの壁には、カラーの映画スターピンナップだけでなく、山口百恵の雑誌切り抜きも貼ってあります。多分、「赤いシリーズ」後半のグラビア。百恵ちゃんの髪が長いから。
もはや映画ではなく、テレビドラマが庶民の娯楽となったことを表しているんだなあ。そして、反日・抗日映画がもてはやされた頃とは、日本という存在の受け取り方も変わったことが反映されてます。
子供たちに演技やダンス、歌などを教える国立の「少年宮」の試験を、兵兵の願いをきっかけに受験する玲玲たち。姉弟二人とも受かったのに、両親は「学費が高くて2人分は無理だ。中学受験もあるおまえは我慢して」と玲玲を諭します。そりゃ殺生な。母の影響で映画スターになることに憧れていた玲玲は、口惜しさのあまり、無邪気な弟を連れてバスに乗り、周囲に家ひとつないバス停で弟だけ下ろして帰宅してしまいます。ううう……(涙)思い出した…跡取り息子として可愛がられていた弟に嫉妬し、取っ組み合って靴下脱がせてわぁわぁ泣かしていた頃を…。仕返しに、集めていた大事なシールコレクションを、柱という柱全部に張られて泣いたんだっけ。少年少女合唱団に入りたい!とせがんで、親に拒否されたこともあった……そして弟の学費もあるんだから無理!と、東京の女子大入学を却下されたことも…(T_T)(T_T)(T_T)
なのに弟は地方大学で、のんびり一人暮らしを満喫して就職難も経験せずに済んだんだーーー! 兵兵ほど純粋でもなかったし、お姉ちゃんをかばうどころかあれこれ告げ口してたぞー!
いやその、あまりにも身に覚えがありすぎて、この映画のくだりは辛かったっすってことです。
そして玲玲一家にとって最大の悲劇が、野外映画上映最後の日=パンさんの、そして母、パンさん、玲玲を結びつけた映画との縁がなくなってしまう日に起こる。そのために、玲玲は○○を失い家出し、一家は離散することになるのだ……。
玲玲と毛小兵、いや大兵が、あの広い北京で偶然再会したことで、もつれた家族の思い全てが一気にラストへと収束していくわけですが、このへんはちょっと駆け足過ぎたかなあ…。
現代の玲玲、可愛かったシャオトンちゃんとは打って変わり、いかにも都会で孤独に生き抜いてこられただけあって強情・勝ち気そうで、そりゃ素直に家族の前に姿を現す気にはなれなかったかなあ、とも思える。でも、壊れた心は、自分ひとりではどうにもならなくて…あの天真爛漫な小、いや大兵の笑顔に、優しさに、ふとすがってみたくもなるよね…。
それにしても気になります。もしも東京国際映画祭などでこの映画を観て、監督への質問ができるような機会があるものならば、ぜひに聞きたかった。
いったい玲玲はどうやって、北京で食いつないでいたんですか?
中学もまともに卒業してない、地方出身の、しかも身体障害者。
なのに高層アパートメントで一人暮らし。映写機はゴミから拾ってきたとしても、VCDを買う余裕は? 髪をカットして茶髪に染めるお金は? あの人たちに送金する余裕は?
現代中国では、障害者に職業訓練を施し、優先的に就労させる制度でもあるのかな…?
気になったこと。医師役に、黄健新監督作品「王さんの憂鬱な秋」主役の牛振華さんがクレジットされていたように思ったのだけど、確か牛さんは2004年5月に北京での交通事故で亡くなったはず…。遺作なのだろうか。
そして映写技師の潘大任さん役の男優は、どことなくあの借金大王・二代目快楽亭ブラックに似ていた…うーんうーんうーーーん。ブラックさんはこんな「ヌルい」映画は観ないだろうけど。
そして、400円で買えたミニパンフレットなのだけど…。
チョウ・シュアン周[王旋]の解説で「30〜40年代上海のナイトクラブで活躍した歌手。その歌声はゴールデンボイスと呼ばれ200曲以上を録音したが、多くはレコードにならず終わった」って何なのよ? ナイトクラブ? それじゃあ青江美奈級の色っぽい夜の女みたいじゃないのよ? チョウ・シュアンはねえ、きちんと上海の歌舞団で基礎を磨いた、あの東アジアのトップスター李香蘭でさえ敬愛し崇めたてまつった、歌える映画女優、美空ひばりや雪村いづみ以上かもしれない大アイドルスタアなのよ! 1937年から1941年に約20本の映画に出演した、押しもおされもせぬ大女優よ! でなきゃ玲玲の母親が「チョウ・シュアンみたいな映画スターになりたい」と憧れるわけないじゃない? 歌手としても歴史的な名曲「何日君再来」を最初に歌い「金の喉を持つ」と称えられたのよ! ちゃんと「東京百代唱片公司」サイトを参考にしなさい!
これだから、アーーールーーーバーーートーーーーローーース・フィーーーーールーーーームーーーーはーーー!
と内心ボヤキつつ、誰も聞いてくれないのでシネマ横丁で醤油ラーメン食って、また雨の中を帰宅したのだった。
ここのOS名画座では「胡同のひまわり」「緑茶」も上映予定。願わくば、夜19時台からの上映がありますように。



ブログ再開待っていました。嬉しいです。
nancixさんも「玲玲の電影日記」をご覧になったのですね。nancixさんがこの映画が映画祭などで上映されていたら質問したい点、私もすご〜く疑問でした。本当にどのような設定なのでしょう?・・・突っ込む点はありましたが、私はラストのあたりで突っ込みながら泣いてしまい、観て良かったと思いました。
小兵役の男の子ほんまキョーレツでしたね。
小憎たらしい笑顔を見つつ「貴重(?)な子役ね。」などど思っていました。
夏雨クン、普通の若者ですね〜。でもそれもよいな〜と・・・。そう言えば、友人とあるところで(バレバレ?)彼を見掛け「太陽の少年の子よね。大人になったね。」と近所のおばさん的な話をしたの思い出しました。
チョウ・シュアン周[王旋]の解説はやはりおかしいですよね。nancixさんの解説を拝見し、パンフの解説に誤りがあるのだとすっきりしました。
丁度「一切從電影開始」というCDを購入し聴いていたので余計に気になっていたのですよ。
ありがとうございます。
夏雨クン、「太陽の少年」以降、ジアン・ウェン姜文さんの影に悩まされていたそうですが、ようやく脱して新境地に至ったようで、何よりです。ショーン・ユー余文楽やF4のヴァネス・ウー呉建豪と共演の「ドラゴン・スクワット」も10月頃に日本公開が決まったとのこと、浮世離れした美形に混じってリアル感をかもし出してくれるのではないかといささか期待しています。
「一切從電影開始」とは、このCDですかね?
http://www.hmv.com.hk/ch/product/canto.asp?sku=605588
第1曲めは「月夜の願い〜新難兄難弟」でWトニーが踊っていたときの曲ですね! 14曲めもトニーがロマンチック・ホラー映画に出演したときのモチーフになった妖しいムードの「等著イ尓回來」だし、あの映画を「花様年華」と名づける元になった「花樣的年華」も収録されているし、お得な1枚ですね!
女の子の食いつなぎもそうですが、成長過程の時代的背景もちょっとおかしい。おかしいけれど、私はのめりこんでしまいました。秀作でした。「胡同のひまわり」は、これ以上の出来ばえだそうです。楽しみにしている一作です。 冨田弘嗣