
香港ベテラン音楽人のジェームズ・ウォン黄霑さんが、肺がんで亡くなったそうだ。享年64歳。
3日前に自宅で突然倒れて昏睡状態になり、妻が急報して救急車で運ばれた。11月24日午前0時46分、香港の沙田仁安医院で、ガンから来る肺炎のために亡くなったとのこと。
昨年6月には「3年前からガンに罹っている」と公表し、切除手術と化学治療を受けたが、最近になってまた病状が悪化していたんだそう…。でもさあ、去年だよね? ソロコンサート開いてニコパパこと謝賢さんをステージに上げて掛け合いしてたのは?
ジェームズ・ウォンさんの本名は黄湛森。1941年広州生まれで、49年に内戦を逃れるためか、両親に連れられ香港にやって来た。あのブルース・リー李小龍と1歳違いで、同じ頃に同じラサール中学に通っていたと、以前も何かでブルース・リーの思い出を語っていた。
ジェームスさんは63年に香港大学中文系を卒業し、1983年には哲学の学位を取得した秀才だったんである。2年前から香港大学に戻って博士研究生として、香港広東語流行歌曲と流行文学について学び直し、61歳で博士号を獲得したとか。
いやぁ、派手派手成金ファッションでガハハと大声で豪快に笑い、怒ったら怒鳴り、酒と女に目がなさそうな脂ぎったスケベオジサンに見える人が、実は意外な秀才だ、ということは香港芸能人にはままあることで。
ジェームスさんは15歳で映画音楽やレコード録音の仕事に参加したというから早熟だ。50年代当時の音楽界にはフィリピンミュージシャンが多かったそうだが、ジェームスさんの「口琴」(本物の口琴? ハーモニカ?)の技術は一流で、フィリピンバンドよりも高いギャラをもらえたそうだ。
ジェームスさんは「自分は商売人だ」と言ってはばからなかった。"鬼才"と呼ばれ、広告業界を根城にして、芸術は単なるシュミだと広言していた。そして1960年から現在まで、CMソングや映画音楽やテレビの劇伴の曲や歌詞を書きまくった。作品は1千作を超えるというから凄い。ジェームスさんが作詞し、ジョセフ・クー顧嘉輝さん(名前は「君さえいれば〜金枝玉葉」のレスリーの役名、顧明に拝借されてしまった)が作曲したテレビドラマ主題歌は、香港のお茶の間から各国のチャイナタウンまで津々浦々で大ヒットしていた。
ジェームスさんは映画監督も手がけたし脚本、ラジオ劇の俳優、作家、さらにテレビ番組のパーソナリティも務めた。レスリーがまるでジェームスさんちの居間に招かれたようにくつろいでフランクに語りまくったあの番組、いまだに覚えている。経済的には波乱万丈、浮き沈みがあったみたいだ。妻子は苦労しただろうなあ。
いちばん可笑しかったのは、柴門ふみさんのコミック「九龍で会いましょう」(下)の「実録!! 巻末ドキュメント漫画 九龍で会いました」に、ジョギング中のジェームスさんが唐突に登場したこと。
残念ながら柴門さんはジェームスさんの顔を知らなかったらしく「謎のコンポーザー」としか書いてないが、香港映画ファンは「ジェームスさんだぁ! ジェームスさんしかいない! "アイム・モースト・フェイマス・コンポーザー・イン・ホンコン!"と天真爛漫に名乗って許されるのはジェームスさんだけ!」と笑い転げたもんだった。
…柴門さん、通りすがりのジャパニーズに挨拶して去って行った「謎のコンポーザー」が、天に去ってしまいましたよ…。
もともとはベテラン女優兼歌手のディニー・イップ葉徳嫻の持ち歌で、後にレスリーが歌い、トニーがソロアルバム「風沙」で歌った「明星」も、ジェームスさんが作詞作曲した。
レスリーが歌い、トニーが主演したテレビドラマ「鹿鼎記」の主題歌「始終会行運」も、ジェームスさんが歌詞を作ったそうだ。
でもやっぱり、ジェームスさんといえば映画の主題歌だなあ。
「男たちの挽歌」でレスリーが歌った「當年情」。
「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」の、♪ヤンーサンロ〜で始まるレスリーの主題歌「倩女幽魂」は、ジェームスさんの作詞作曲。挿入歌でサリー・イップ葉倩文が切なく歌い上げた「黎明不要来」。「レオン・ライは来ないで」ではない、というのは当時の香港映画ファン内で流行ったジョーク。
そうそう「大英雄」でジャッキー・チョン張學友が、ジョイ・ウォン王祖賢に向かって思いを打ち明けるときに東奔西走しながら歌った「我Love イ尓」も、ロッシーニの曲にジェームス先生が歌詞をつけてマーク・ロイ雷頌徳が編曲した替え歌です(^_^;)
チョウ・ユンファ迷だった頃、何度も繰り返し聞いた「上海灘」(映画「上海グランド」の元になったテレビドラマシリーズ)も忘れられない。アンディ・ラウ劉徳華もコンサートで歌ってたみたい。
東京の映画祭でたった一度だけ見たツイ・ハーク監督の「笑傲江湖」の主題歌、「滄海一声笑」も素晴らしかった。2人の侠客が、死を賭して悠然と小船の上でこの歌を琴などで合奏し、合唱しながら敵の襲撃に身をさらすのだ。この歌、実はジェームスさん自ら歌ったそうで。英雄にふさわしい、力強くおおらかな声だったなあ。
忘れちゃならない、ジェット・リー李連杰主演、勇猛な黄飛鴻ウォン・フェイホンシリーズ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」シリーズの「男児當自強」。日本のテレビ番組で中華系話題になると必ずかかってます。
このへんの曲は、本当にドラマチックで大げさなくらいエモーショナル。
やっぱり、90年代に出てきたマーク・ロイ雷頌徳、コンフォート・チャン陳光榮、ロナルド・ンー伍樂城、ピーター・カム金培達らのように、J-POPもK-POPも洋楽も貪欲に吸収した世代よりも泥臭くて、垢抜けない。でもサビが一発で覚えられるメロディだし、中国語に詳しくなくても歌詞の響きがキレイ、韻をちゃんと踏んでいるみたいに聞こえる。無理にJ-POPに歌詞を当てはめましたー、字余りで早口になりますーなんてのじゃない。声調に無理がなく、歌手の声が伸び伸びと張りがあるように聞こえる音を選んでいるようなのだ。ジェームスさんの後を継いで量産型のラム・チェー林夕さん(「インファナル・アフェア」主題歌や「地下鉄」主題歌の作詞家)はその点、どうなんだろう?
何だか、一時代が過ぎ去っていくって気がするなあ…。



そうなんですよ、香港で中華圏であんなに有名なのに、日本ではちっとも紹介されない! サブカル系のマルチアーティストばっかりもてはやされるけど、こういう泥臭いまでに時代&大衆と添い寝してきた香港音楽人も、日本人は(評価は別として)知っとかなあかんかったのです!
古賀政男よりも服部良一、ジブリアニメの久石譲より羽田健太郎(どういう比較だ)のnancixにとっては、悲しいことこの上ないですよ…。カラオケで歌える曲、香港に行っても今後ますます減ってしまうなあ…。
香港の一つの時代を背負っていた人が次々に亡くなっていくのですね。さみしい限りです。
あと、重箱の隅系ですいません。トニーさんが追悼コンサートで歌ったのは「有誰共鳴」では?「明星」はアルバムに入っていますね。
職場でアップロードなんかするもんじゃないね…とほほ。
yesasia.comなどでコンピレーションアルバム「笑傲歌壇黄霑傳世經典」を通販で買ってみるのはいかがでしょう。3枚組で、2155円。有名映画主題曲の多くを網羅しています。
http://global.yesasia.com/jp/PrdDept.aspx/pid-1003940736/code-c/section-music/
nancixも注文してみました。まだ届いていませんが。
著書などもここに網羅されています。
http://global.yesasia.com/jp/prdGrpDept.aspx?pid=1003920151§ion=music&code=c&version=all&
情報量のすごさと視点の素敵さに、いつも勉強させてもらっています。
ところでひとつ質問させていただいてよろしいでしょうか。
『ムーン/ジェームス・ウォンの歌詞による7つのアジアの物語』というオムニバス映画で、モチーフになっている曲が何かごぞんじでしょうか?もしご存じでしたら、お教えいただけるとありがたいのですが・・・
はずかしながらウォン氏については最近まで知らなかったのですが、すばらしい作詞家だったのですね。大好きな『大英雄』の「我Love イ尓」も氏による作詞だったとは・・・