2005年12月14日

痛すぎた「親切なクムジャさん」

親切なクムジャさん SYMPATHY FOR LADY VENGEANCE 「SAYURI」に続いて「親切なチャングムさ」…もとい、「親切なクムジャさん」も、遅ればせながら大阪で見た。
 「オールド・ボーイ」と同じ上映館。上映開始時間が他館よりも遅かったので、助かった。
 思えばミョーなタイトル(原題の直訳、韓国映画には多いよな…)と、トニー・レオンとイ・ヨンエさんの夢の2ショットが見られた2004年の第9回釜山国際映画祭での記者会見で、印象に残っていた作品。あのときは「新作はどんなストーリーですか?」と聞かれて「親切な、クムジャさんの話です」と照れ笑いしていたイ・ヨンエ李英愛さんだった。
釜山でのイ・ヨンエとトニー
 イ・ヨンエ出演映画を見るのは「JSA」、「春の日は過ぎ行く」以来だ。
 nancixの「映画女優の許容範囲」は結構狭くて、永遠の憧れ原田美枝子、若い日も今も魅力的な岸恵子、若い頃の高峰秀子や浅丘ルリ子、鈴木京香、仲間由紀恵ちゃん、中華圏ならシルヴィア・チェン、ブリジット・リンぐらいしか「美人」に見えない。昨今の香港には、美人ー!と手放しで言える映画女優がいないのが悲しいところだ。賞独占のセシリア・チョンは痩せ過ぎ・ドスが効き過ぎだし(「無極」には期待ー!)、カレーナ・ラム林嘉欣ちゃんもまだまだ「カワイコちゃん」でしかないし…。
 
 そこへいくと、韓国にはイ・ヨンエさんが存在する!
 もー、うっとり見とれちゃうほど端正。美しい。透き通った瞳の輝きが何ともいえずさわやか。柔和なのに、硬質なクリスタルのように、神秘的で侵しがたい空気をまとっている。たとえ、普段着はそんじょそこらの女子大生のようにカジュアルで性格は裏表無く(つまり単純?)ひたむきだとしても、だ。
 なのに、「宮廷女官チャングムの誓い/大長今」を経て、選んだ作品が、女囚の復讐ものですよ。
 その心意気といったら、「花様年華」と「2046」の間にベタな香港ラブコメや「インファナル・アフェア」に出演したトニーさんに通じ……通じませんかね……?
 とにかく今のところ、トニー・レオンと共演してほしい女優ナンバー1なのだ。トニー、のんびり休暇取ってる場合じゃありませんぜ。チョウ・ユンファ兄貴が先に共演しちゃうかもしれませんぜ。

 オープニング。まるで「♪美しさはー罪ーー」とばかりに、画面いっぱいにうねうねとイバラが伸び、小さな深紅のバラが咲く。
 刺青のようでもあり、アールヌーボーの紋様のようでもある。
 虫プロには珍しかった官能アニメラマ映画「哀しみのベラドンナ」や、同作の美術を担当した深井国のタッチさえ連想させる(古すぎ)。
 英語題は「SYMPATHY FOR LADY VENGEANCE」。
 レディーでっせ。
 ウーマンの復讐への共感、とちゃいまっせ。

 音楽は弦楽器やおそらくはハープシコード(ピアノの原型)による、ワルツが主旋律。
 時々「夢二」「花様年華」で用いられた、梅林茂の「夢二のテーマ」っぽかったりして。

 しかし本編はまあ、劇画「女囚さそり」シリーズからレ○プだの輪○だののオトコがうひょうひょ暗く喜ぶ部分を削除した、調子だった。
 女囚の皆さんって、あのキョーレツなレズビアンな人以外は、泉ピン子や南果歩(渡辺謙夫人!)が出てた女子刑務所ドラマと、そう変わんなかったし。
 さすがに、神聖なチャングムさんをけがすわけにはいかなかったですか。同性としては、ちょっぴりホッ。しかしそれでは、女優として、殻を破ったと言えるんだろうか? いや殻を破らなきゃ絶対ダメッ!てわけじゃないけど。
 子どもの頃、劇画全般も梶芽以子も(見ちゃいけない、怖くてイヤらしいもの)だったのだが、今ではなんだってそんなふうにタブー視してたのか、バカバカしくなる。多分、いま「女囚さそり」の復刻DVDなんか見たら、腹抱えて笑えそうだ。トシ食って図太くなったのかなあ。だから、この「親切なクムジャさん」も、昔の自分なら到底見られなかっただろうけど、今だから、平気。「オールド・ボーイ」の"悲しゅうてやがて可笑し"いオフビート感とも共通するってのも、エグそう吐きそうなんじゃ…という危惧を薄めてくれた。

 梶芽以子の「さそり」は、黒くてつばの広い帽子と黒革コート、ブーツを"制服"にしていた記憶がある。
 イ・ヨンエさんも後半、赤いアイシャドウに黒アイラインに黒ずくめの姿で、雪の街頭や、がらんとした廃校の小学校で大活躍。
 ……怪しいって……そんな姿、目立ちすぎますって、ご両人さま。
 ヨンエさんご本人いわく"不良女子高生"姿も、むっちりした制服と不満げにとがらせた唇が可愛くて、あああ、ツイィーの小娘の援助交際的淫らさなんて全然無く。
 不良というより、愛情に素直すぎただけだよね? 好きっ!彼氏にオンナノコの大事なモノをあげたいっっ!と思ったら、後先考えず周囲の叱責どこ吹く風で、一途にのめりこんじゃっただけだよね? としか思えない(ひいきの引き倒し)。

 何より、………痛い。痛すぎる。
 昨今の日本人には、身につまされるプロットが、満載。
 幼児〜小学生の誘拐快楽殺人(性的虐待は、さすがに儒教の国・韓国では詳細を描写できなかったか…)。
 インテリ然とした、塾講師の、もう一つの顔。
 日本で、妻子を少年(当時)に虐殺された夫が、会見で絞り出すように「犯人を死刑にしてほしい、死刑でなければ自分の手で殺したい」と言い放ったこと、いまでも忘れられない。その少年が、カッコをつけてか知人にうそぶいた、心ない手紙の文章も雑誌で目にした。
 自己愛性社会病室者の不気味さ異常さ、その支配欲を、なんとあの「オールド・ボーイ」のあの人が演じるなんて。
 クムジャが、その男が13年の間に積み重ねてきた犯罪にハッと気づく小道具が、なんと携帯ストラップにされた「ガッちゃん」や制服ボタンなどなど、だったのには、うならされた。
 「Dr.スランプ アラレちゃん」の空飛ぶ天使、緑の髪のガッちゃんですよ。
 香港では1、2年前に、CMキャラクターとしてアラレちゃんらが蘇ったのを覚えているけど。
 いったい韓国では、何年前に人気を呼んだのだろう…?

 で、「オールド・ボーイ」でもそうだったけど、激昂した人間のふるまいってのは…。
 クムジャさん、憎い相手を無抵抗にしておいて、ブーツのヒールで蹴り蹴り!、踏み踏み!します。
 精一杯、ありったけの憤怒を込めてやってるんですが、
 いかんせん劇画のようにカッコよくスタイリッシュには、見えないのです。
 カメラと人物の間に、ミョーな距離があるのです。
 客観的に見ないではいられない、距離なのです。
 ……CG使ってデフォルメしても、余計に憤飯モノになるしなあ…。
 どうもこの監督、登場人物が生真面目に、真剣に振る舞えば振る舞うほど、
 傍目には笑わずにはいられない滑稽さが醸し出されるように、
 描かずにはいられない性分のようなのです。
 だってヨンエさんが、あのヨンエさんが
 「踏んでやるっ踏んでやるっ! 蹴ってやるっ蹴ってやるっ! エイエイ!」なんだもんなあ。
 劇画じゃなくて、4コママンガしか思い浮かばないよ…。
 女囚さそりだったら、クールに無表情に、銃弾一発で仕留めるってのに。
 ヨンエさんがいくら瞳を見開いて凄みを出そうとしても、
 笑うところじゃないのに、ミョーに笑いのツボにはまってしまう。気弱にトホホ笑いを浮かべてしまう。
 それが、我ながら自分が不気味。

 被害者がみんなで、とある共同作業に従事するプロットは、別に目新しいわけじゃなくて、アガサ・クリスティー作品(タイトルはあえて書かない)や、最近再読した「御宿かわせみ17 雨月」の「矢大臣殺し」にも出てきたっけ。
 だけどそれって、無辜の人間を、犯罪者にしてしまう作業でもあって。
 一度殺しに手を染めた人間は、倫理観や良心や正義感に囚われていればいるほど、精神的に正常ではいられなくならないだろうか?(From 必殺シリーズ)
 無力な状態におかれた敵を、刺したり殴ったり切り刻む作業で、果たして憤りと喪失感は、解消されるんだろうか? 愛する人が味わったはずの恐怖と苦痛と絶望を、同じ量だけ、殺人犯に感じさせることができるだろうか?(多分、犯人は「この全能のオレ様に逆らうとは!」という憤怒以外、感じない)。
 相手が支配欲にまみれた怪物であればあるほど、nancixなら徹底的に辱めたくなる。目を潰し、耳をそぎ、手足を使えないくらい粉砕し、いやそれとも鎖につないで薬物中毒にして「ご主人様とお呼び!」と蹴飛ばしながら50年はこき使い…。
 ああ、ダメだ。心底邪悪な大の男が、プライドもへったくれもなくヒィヒィ泣き叫び、許しを乞い、心底(あんなことを他人に対してするんじゃなかった)と思い知る方法なんて、具体的に思いつかないや。
 瞬間湯沸かし器にはなれても、長いながい年月、恨みを抱き続けるなんて、できない性分だもんなあ。
 恨んでる憎んでる、非力ながらも一矢報いたい、いつかしっぺ返しをしてやる!とそのときは強く思っても、だんだんその感情が変質して、恨みではなく執着になり、(なんでこんな奴のために自分は苦しまなければならないんだ、虚しいバカバカしい人生の無駄遣い、こだわるだけ悔しい、あんな奴のことなんか存在しなかった、あんな出来事なんてなかったことにしたい)と、自分と闘うはめになりそうなのだ。

 ガバッと(また笑いのツボが…うううう)真っ白な視界に自分を埋めて。
 その後の彼女は、どう生きるというのか。
 何が何でも生き抜く目標を見失い、しばらくは憑きものが落ちたような、放心状態になるんだろうか。
 ムショを出てから出会った人々と、しっかり者の娘に支えられ、悪夢から抜け出して、新しい人生を築くことができるんだろうか。
 「春の日は過ぎ行く」で年上のヨンエさんと別れ、失意から立ち直ろうとあがく役を演じたユ・ジテが演じた、坊やの幻影が指し示したように。
 クムジャさんは、一生贖罪の思いを抱えて、生きていくんだろうか。
 芯の強いクムジャさんだから、酒やオトコには溺れてしまわないだろう、けどなあ…。

 余韻が、重いです。
 「オールド・ボーイ」ほどは多くの賞を獲れそうもない気がするのは、男と男の肉体の激突よりも、動きが鈍い気がするからかなあ。
 感情の動き、アクションとしての動き、観客のエモーションの動き、を総合して、ね。

 ところで。
 ケーキパティシェ見習い?のすっとぼけた彼キム・シフ君、こないだ兵役に就いたばかりのウォン・ビン君に似たタイプでしたね♪
 ウォン・ビン君は入隊前にして、すでに逞しくもむさく?なってたけど、他にも少年っぽいタレントはいるんだなあ。ちょっと今後が楽しみ。
 で、姉歯疑惑髪型の神父様が「オールド・ボーイ」ではちょっとばかし三上博史風だったあの人で、クムジャさんと娘を雪の街頭で襲った男の片割れが「シュリ」「JSA」「大統領の理髪師」のあの人だったとは、見てる最中はぜーーんぜん、気づきませんでした。トホホ。
 nancixの目は節穴で、ござる。
posted by nancix at 23:37| Comment(1) | TrackBack(6) | アジア映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
トラバありがとうございました。
>登場人物が生真面目に、真剣に振る舞えば振る舞うほど、 傍目には笑わずにはいられない滑稽さが醸し出されるように、 描かずにはいられない性分のようなのです。
これ凄くわかります!見るに耐えないシーンでも、何故か笑いが出そうになりますよね。私的には、そこが好きですよ。
Posted by カヌ at 2005年12月29日 01:52
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