2005年12月13日

遅ればせながら「SAYURI」見ましたえ

 神戸なら火曜がレディースデーであり、作業が前工程の大幅遅れで時間が空いてしまったので、職場を定時に出て神戸・三宮に駆け戻った。ルミナリエ目当ての観光客をかき分けかきわけ、神戸国際会館の国際松竹へ。やっとこさ「SAYURI」を見るのです。
 うーん、レディースデーなのに、館内は満員になってない…。ハリポタは札止めなのに。

 思えば米国人作家が書いた「メモワール・オブ・ア・ゲイシャ」が出版されて話題になり、
 スピちゃんことスピルバーグが映画化すると聞き、
 主人公に米国在住の舞踊家オカモト・リカを起用すると聞き知ったのは、何年前のことだったか。

 そして「ラヴソング」を激賞したスピちゃんを頼って、ピーター・チャン陳可辛監督がUFO電影人製作有限公司からイチ抜けて渡米、
 ドリームワークスでスピちゃん夫人がヒロインの「ラブレター」を撮影。
 引き立ててくれたお礼にか、ピーターさんがスピちゃんにマギー・チョン張曼玉を推奨、
 「SAYURI」の豆葉姐さん役の候補になったと聞いたのも、1998年前後のことだと思う。
 
 豆葉姐さん…日本髪のマギーかよぉ…いやまあ、包容力があって聡明で、はんなりとしたなかに闘志を秘めた芸妓さん、マギーなら演じられないことはないだろうけど、「フラワーズ・オブ・シャンハイ」でさえ出演しなかったマギーだしなあ…と、ハラハラしながら事態を見守っていたのだった。
 そのへんのことは、2004年08月02日のここに書きましたな。原作小説も、Amazon.co.jpで中古を取り寄せて読みました。
 うん、外国人の・男性にしては・驚くほど詳細に取材して書かれていて、また日本語訳文が素晴らしかった。そんじょそこらの映画ノヴェライズ本が読めなくなります。(比べるな)

 そして、あれよあれよというまにチャン・ツイィー章子怡、ミシェール・ヨー楊紫瓊、コン・リー鞏俐、渡辺謙、役所広司、工藤夕貴、さらには桃井かおり(発表されてないけど、豆葉の旦那さんの将軍役にケネス・ツァン曾江!)というキャストが決まり、なんでまた「おかあさん」がモダンでいつまで経っても若々しい、いや「もう頬杖はつかない」の女子大生よりも今のほうが柔らかくみずみずしいかものSK-2桃井かおりさんなんだー!とあっけにとられた。スチールが中華系サイトに流出するたびに頭痛が痛い…いや、頭が痛くなり…。
 
 長い年月を経て、やっと見た実際の映像は……。

 _| ̄|○

 そか。
 まあ、こんなもんですか。
 なんや、あわただしいリズムでしたなあ。いまどきの映画のスピード感で描くには、しょうがおへんのやろか。
 なんやしらん、原作が行方定めぬ、幅は狭いけど流れの速い清流の響きを秘めているのに、映画は鯉の泳ぐ、緑色の濃い、つまりよどんだ人工の池のように思われましたんですよ。
 原作から想像したより、薄汚い映像を見せられたなあ、という感じ。

 突っ込みを入れだしたら、キリがないですよ、そりゃね。

 戸田なっち、いいかげんに「身を売るなど!」みたいな「〜など!」の濫用はやめてくれ!とか、
 さゆりが神社で鈴(銅鑼でもなさそうだった)の緒を振ったら、なぜかお寺の鐘が鳴ーるーーーおーててつなーいでーみな帰ろーとか、
 舞妓時代の肩上げはデカすぎないか?とか、
さゆりの肩上げが…

 衿の抜き方が、裾さばきがだらしなくて、おげひーん!とか、
さゆりの衿、遊女並みに開きすぎ

 "水揚げ"のときの赤襦袢が、きゅっとウエストを締め付けてて、まるで真紅のガウンやないかい!とか、
 都をどりの晴れ舞台、鷺娘のはずのさゆりが、毒々しすぎてストリップダンサーにしか見えない!ならば、開き直ってもっとご開帳せんかい!とか(オッサンか)、
ストリップ?大衆演劇?のさゆり

 舞妓さんのこっぽりというより、その大きさ高さじゃ花魁下駄並みの大きさとちゃいますか?とか、
 扇子高速に大量に回し過ぎ! 海老一染之助・染太郎(故人)の正月芸か!とか、
 コン・リー演じた敵役ハツモモが、古来、米国人の妄想する典型的な"ドラゴン・レディー"でしかなくて、こんな毒吐き芸妓が美貌で知られる、花街一の売れっ子になれるかいっ!とか。

 百歩譲って、これが京都の祇園ではなくロブ・マーシャル監督のファンタジーによる「みやこ」の「はなまち」という町のおとぎ話だとしても。
 女たちの色彩が毒々しくて、見た目にも、品がおへん。お下劣。
 つつましい色彩のなかに、悪意や嫉妬、恨みの毒が、それと気づかないほどさりげなく仕込まれている、それが優れたおとぎ話の、怖ろしさではないんやろか。
 京都の怖ろしさ、奥深さも、そのさりげなさにあるのに。
 祖母が京都女というだけで、単純明快な神戸に生まれ育った者が軽々しく言えることではないけど。

 「割れしのぶ」「おふく」の髪型、厳しい制限があるからこそ凛々しくも見える着物の着付け。
 真っ白に塗った肌に、すっきりと描かれる眉、ちんまりとした口紅、真っ黒なアイラインに目元のほんのりとした紅。
 そういうものを「美しい」と感じられるのは、日本人だから、に過ぎないのでしょうか?
 CMのH崎Aみの舞妓姿でさえ(マドンナの逆輸入模倣)にしか見えなくて、げんなりなのに。

 和服の美というものは、実に危うい境界線で、美しいかエロチックか、きりりと凛々しいかだらしないか、が分かれてしまうものなのだ、と改めて痛感させられました。

 渡辺謙と大後寿々花ちゃんだけが、存在そのものが清々しかったですな。タレメちゃん、ついついいじめたくなる可憐さ…。

 nancixにとって、さゆりはやはり、小顔で目鼻立ちがちんまりと小さくまとまっていなきゃ、そして見た目はつつましくて哀れを催す雰囲気をかもし出してないとならんのです。薄化粧にして眉毛を細く整えた工藤夕貴の方が、まだイメージだったかも。
さゆり立ち姿 ツイィーだと、あの小鼻をつまんでひねっちゃいたくなってしまって。(「HERO」「2046」の後遺症か)
 豆葉姐さんはやはり、マギー・チョン張曼玉系の顔立ちで色白で涼やかでないと。
 ミシェール・ヨー姐さんだと、申し訳ないけど、芸妓ではやはりないのです。着物を着た元サーファーの女性、に過ぎないのです。
 そして初桃も、もっとクール・ビューティーで、見た目は美しく整っていて、オトコはその中味が腐っていることにほとんど気づかないぐらい、裏表がないと。
 そして「会長さん」は、小林薫系の、粋を知ってる、飄々とした、メガネをかけたビジネスマンっぽいイメージだったんですがねえ。
 だけど渡辺謙さんは、キャストを知ったときに「えーーっノブさんの方が合ってない? ワイルドすぎる!」と叫んだぐらいのnancixの懸念を、慈愛に満ちた表情で吹っ飛ばしてくれてました。さすがだ。
 「笑っているほうが可愛いよ」の"丘の上の王子様"度が、"世界の謙さん"のおかげで原作よりも上がってたように思います。
 女同士はドロドロしてるけど、根本的にはほんっとに「キャンディ・キャンディ」の世界なんだもんなあ、原作も。
 いがらしゆみこに取材したですか?と原作者に問い質したいほど。
 まあ「キャンディ・キャンディ」だって「あしながおじさん」「ジェーン・エア」などの欧米文学のプロットをちりばめているんだけど。

 「ノブさん」はねえ、原作では片腕も無いのだ。戦地で、爆弾で吹っ飛ばされたのだ。そのことで、初桃が差別的な皮肉を吐いたりする。だからって原作のさゆりは取っ組み合ったりしないけど。
 でもって、醜くなった自分を恥じてか劣等感からか、モリモリ仕事に打ち込み、芸術だの粋だのには大して興味が無く、ずけずけしかモノを言えず、芸妓たちには八つ当たりしたり、冷たく接したりしかできないオトコ。ひねこびたようで、実は「会長さん」よりも純情かもしれない男なのだ。
 おそらく、さゆりの一件で、43歳になった彼は姐婿で義兄でもある「会長さん」と袂を分かち、自分で電機メーカーを立ち上げるよね、多分。んでもってそのメーカーは現代、DVDレコーダーにしろデジカメにしろ家電にしろ何歩もP社やS社に立ち遅れて経営再建中…いやいやいや。このへんは勝手な蛇足。気にしない、気にしない。日本の実業家に片腕で火傷の跡があった人物など、おそらくいない…。

 ところで、ひっかかったのが、クライマックスの奄美での、さゆりの画策の相手。
 原作では、確か会長さんとノブさんの会社、岩村電器の戦後の復興のために役に立ってもらいたい日本人官僚・佐藤さん(豚並みの体格、粋を解さない野暮で陰気な男)との情事をノブさんに見せて、幻想から醒めさせ、旦那になることをあきらめてもらおうとしたはずなのだ。
 それが、映画ではなぜかGHQの将校になっていた。
青い目のさゆり なぜだ。やはりSAYURIは色白、青灰色の瞳=我らのヒロインであり、いわゆるドラゴンレディーや東洋人女ではないという隠喩だとマーシャル監督は解釈したのか。その我らのヒロインを、東洋人男に抱かせることはできないということか。チャン・ツイィー側が、日本人に抱かれるシーンは中国国内の反発が大きいと見て設定変更を要求したのか。
 何だか釈然としなかった。

 そのくせ、さゆりの「その後」を、この映画は描かない。
 足長おじさんだったと「会長さん」の真意と愛情を明かし、口づけを交わして、めでたしめでたし。これでは予告編の「2つの人生を生きた女、さゆり」のコピーに反してしまう。
 原作では、その後のさゆりは会長さんが京都に作った、会社の接待用別邸を足がかりに、2号さんとなり、花柳界はいくぶん寂しいけれど引退する。
 養母の「おかあさん」はいろいろとごねるが、「会長さん」のご威光にはかなわない。
 暗示としてほのめかされるだけだが、さゆりは会長さんとの間に息子をもうけ、未婚の母として密かに育てる。
 しかし会長さんは、正妻との間の長女の婿養子に、そしてゆくゆくは自分の後継者にと見込んだ社員の男が、結婚を辞退すると言い出したことに苦悩する。
 当時、日本の大手保険会社で、創業者が自分の嫡男は社長の器に非ずとして、東京の芸者に産ませた庶子に後を継がせると決め、一悶着あった余波だった。
 婿養子候補者は、もしも会長の隠し子が成長して優れた人材だとなったら、血のつながらない自分が退けられるのではないかと畏れたのだ。
 さゆりは会長さんに「米国で小さな茶屋を開きたい。でも子どもが2つの国のどっちつかずに育ったら、子どもが難儀するそうどすな。つまりは、行ったら行きっぱなしになるのがええいうことどっしゃろ」「女がそないに決めたら、もう子どもは日本に帰さへんいうことどす」と切り出す。驚く会長だが、つまりは(自分の息子を米国で人目に付かないように育て、後継者争いには加わらせない)というさゆりの配慮だと察して、涙するのだ。

 そしてさゆりはニューヨークに住み、茶屋を開き、社用族や渡米してきた芸妓たち、日系の文化人らの世話役としてつつましく生きる。新橋の英語芸者、中村喜春ほどは目立たずに。
 そのニューヨーク在住の、老いた元芸妓の回想録(メモワール)の聞き書きというスタイルを、原作小説はとっているのだ。
 ところが映画版は、老女のナレーションだけで「その後のさゆり」の暗示すらしない。ナレーションには味があってよかったけど、ナレーターの表記がパンフにないよぉ…(T_T) IMdbによると、Shizuko Hoshiという人だそうだけど、調べたらさゆり(千代)の父を演じたマコ岩松さんの夫人、舞台女優のスージー(星静子)さんだった。それくらいパンフで紹介してくださいよ…。

 ニューヨークにたたずむ小柄な着物女性という、後半生の描写無くして、何のためのハリウッド製作米国映画なのか?
 まったくのゲイシャ・ファンタジーとするつもりだったのか。何だかなあ。
 原作小説のファンに対しても、不誠実な気がする。

 米国化粧品メーカーは、入浴剤とかフェイスパウダー、お米を使った洗顔剤をセットしたコスメキット・オブ・ア・ゲイシャ・コレクション」を発売。パッケージにはさゆりが着ている着物の柄の桜があしらわれているそう。米国GAPはドレスやハンドバッグ、紅茶のメーカーのリパブリック・オブ・ティー社も煎茶と桜の花びらをブレンドした「メモワール・オブ・ゲイシャ」を発売。人形メーカー、トナー・ドール社もきらびやかな着物人形を「ゲイシャ・コレクション」として発売…。

 そんな商売ネタで話題になるよりも、スピルバーグがロケハンしたと伝え聞く城崎温泉でちゃんとロケし、大半を日本人キャストで固め(マギーだけは…出してほしかったけど…)、京都の撮影所の人材を生かして、ベテラン床山さん・ベテラン着物スタイリスト・日舞のスペシャリストをきちんと起用して、原作を尊重して、作ってほしかったなあ。

 女同士の競い合い、何ひとつ持たない孤児の少女が懸命にけなげに生き抜く物語なら、まだ「宮廷女官チャングムの誓い」の方が好きですよ。
 芸妓も女官(医女)も専門職ですが、女官は男に身を任すこと抜きで、自らの才覚で階段を上っていけるんだもんね。(中には王の側室になった女官もいたが、それはそれとして)
posted by nancix at 23:32| Comment(5) | TrackBack(2) | アジア以外の映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>青灰色の瞳
この部分を読んで、そういえばツィーの瞳が青っぽく見えた時があったのを思い出しました。
Posted by 藍*ai at 2005年12月25日 16:50
>この部分を読んで、そういえばツィーの瞳が青っぽく見えた時があったのを思い出しました。

藍*aiさん、ツィイーはカラーコンタクト入れていたそうです。(たぶん大後寿々花ちゃんも)ツィイーはそのせいで眼が真っ赤になっちゃったそうです。合わなかったのかな?

> うーん、レディースデーなのに、館内は満員になってない…。ハリポタは札止めなのに。

nancixさん、王様のブランチでは「SAYURI」公開第1週は4位、第2週は7位に落ちていました。ちなみにこの週の第1位はハリポタ、2位は「男たちの大和/YAMATO」です。
日本人はハリウッドが制作した芸者ストーリィをわざわざ観たいと思わないということではないでしょうか。
Posted by ぐう at 2005年12月25日 17:02
青灰色の瞳は、原作通りの設定なんですよね。
「さらば、わが愛〜覇王別姫」の際立つ美貌の程蝶衣が、6本指の持ち主だったように、神秘性を高めようとしたのか…?

やはり、日本では不評ですよね…もともと文芸作であるし。しかし「男たちの大和」は見る気がしない…2位だっつーのも、業腹だなー(T_T)
Posted by nancix at 2005年12月25日 23:29
>着物を着た元サーファーの女性。。。

山田君、座布団、10枚っ。(笑)

グレさんも、原作がとても美しいだけに・・・
て、おしゃってました。
ふむ・・・
やはり、原作、読むべきかもなのだな。

えと、関係ありまへんが
nu.は、たった今
(安定期に入ったので)
大変遅ればせながら、師匠オススメ?の
「妊娠カレンダー」読み始めました。

しかし、あれだな
ツーイーは、やぱし、アカンか。。。
あの、こましゃくれたカンジがアカンのか?
(頑張れ、ツーイー。)
nu.は、あの
“小鼻をひっつまんでひねってやる”と
ジョークとして、かわさずに
「マジ怒りしそうな」彼女の可愛げのなさが
ちょっと、好きなんデス。

今後も、彼女の動向に注目してゆきたく
存じます。(と、書きつつ)
結局、パープル〜見逃しました。ははは。
Posted by nu. at 2005年12月26日 14:39
>女たちの色彩が毒々しくて、
>見た目にも、品がおへん。お下劣。

そうなんです。この映画映像は美しいのに
すっごく下品なんですよ〜。全然美しくないんだもん。
あまりの酷さに映画館から
何度も逃げ出したかったくらいです(苦笑)
都踊りの場面にしたかったあの場面では、
思わず声を出して映画館で笑ってしまった
かなりヒンシュクもののガオでした(汗)
でも、笑ってしまうです、だって・・(爆死)
けど、青い色の目は原作どおりだったのですね。
原作は面白そうだから読んでみようかな。
けど、ちと、なんだか脱力っす(笑)。胃薬ほしいです(T▽T)
しばらく『SAYURI』は、食べられない・・(苦笑)
Posted by ガオ at 2005年12月28日 21:16
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「SAYURI」はツィイーズ・ドリーム
Excerpt: 今日はレディースディ。映画「SAYURI」http://www.movies.co.jp/sayuri/を観てきました。んーなんていうんだろ・・ジャパニーズ・ドリーム?でもないこの感じ。あっそうだ!「...
Weblog: ぐうの日常
Tracked: 2005-12-25 16:45

『SAYURI』ちゃんに逢ってきたぜ。
Excerpt: 幻想とか、ロマンとか?誤解とか、ファンタジーとか?
Weblog: 「誰かわたしを叱ってください」日記
Tracked: 2005-12-26 14:45