2008年10月08日

いかにもゲージツ映画「秘岸」を見る

 香港・九龍塘のフェスティバルウォーク内、AMC又一城で「秘岸」を見る。

 一般公開である。

 1日2回の上映、しかも午後6時の回で観客は6人……_| ̄|○

 まあね、香港人にはなじみのないジャン・イーバイ張一白という監督の北京語台詞作品だしね、物語の舞台は長江のほとりの重慶だしね…。東京国際映画祭「アジアの風」部門出品目当てとしか思えない、いかにもゲージツ映画っぽいポスターと予告編の作りなんである。
秘岸ポスター
 でも出演者はエリック・ツァン曾志偉とっつぁん、長い足を見せつけまくりのカレン・モク莫文蔚、友情出演という名目だけど「おばさんのポストモダン生活」のチョウ・ユンファ兄貴ばりに出番がちゃんとあるイーソン・チャン陳奕迅と、結構お馴染みの顔なんだけどね…みんな北京語で、ジャン・ウェンリー蒋[雨/文]麗ら、中国俳優女優と渡り合ってます。

張一白監督って、あのカリーナ・ラウ劉嘉玲に中国での主演女優賞を取らせた「好奇害死猫」の監督さんだったんですね! 「見知らぬ女からの手紙」では、何の役で出演してたんでしょ?

 なかなか演出力は達者だと思いました。
 (で、結局2人はヤッたの? ヤッてないの?)と、もどかしいような部分は、中国の検閲に合格するためのギリギリの線だったのか…? 未成年にあーんなことやこーんなことは、させちゃダメ!なんてお達しが中国なら有りそうだし。

 物語はまるで小説のように、章立てされて展開する。区切りとなる章の始めでは、「ママ/Mom」「パパ/Dad」「遊泳/Swim」などの文字と、主人公ともいえる少年、呉小川(オガワではない、シャオチュアン)が作ったフィギュア人形が現れる。このフィギュアがまた、日本のアニメキャラクターフィギュアほど可愛くもなく、アーティスト気取りの香港若者が作るほどひねたデフォルメし過ぎでもなく、ビミョーな出来。

 舞台は重慶、長江のほとり。
 16、7ぐらいの少年・シャオチュアン小川(壇健次)は、昼間は紡績工場内の診療所で、夜は獣医医院の当直でと掛け持ちで働く母親、凡麗(ジャン・ウェンリー蒋[雨/文]麗)と、タクシー運転手の父親・呉濤(エリック・ツァン曾志偉)と3人暮らし。気になる同級生のメガネっ娘、青青がいるのだが、思春期特有の照れと突っ張りで、うまく声がかけられない。
 ある夜、母親は獣医医院で夜勤中、モップ掛けをしながら酒の小瓶をあおる。そして、大型犬を慌てて運び込んだ青年、小易(Mr.Yi、イーソン・チャン陳奕迅)と出会う。その同じ夜、小川は親友の大志に、小食堂に一人でいる青青を見せるが、彼女に声をかける寸前にタクシーで流していた父親の呉濤に見咎められ「学生が夜に何をうろうろしてる、早く帰れ!」と怒鳴られてしまう。
 その日の未明、呉濤はKTV(カラオケクラブ)の前で、一人のクラブガールを拾ってタクシーに乗せた。長い足を見せびらかすように網タイツ+ハイヒールを履いた彼女は、蘇丹(カレン・モク莫文蔚)。そして夜明けも近い午前5時頃、呉濤とが運転し助手席に蘇丹が乗ったタクシーは、ほとんどブレーキもかけずに、岸壁の車止めを倒し、長江に突っ込んで沈んでいった…。

 病院のベッドで目覚めた満身創痍の蘇丹は、複雑骨折したのか金属製ギブスの金具が突き刺さった自分の左足を見つめて、鋭い悲鳴を上げる。
 やがて、公安が壊れたタクシーを長江から引き上げる。黒い喪服姿で声も無く見つめる小川の母親と、アディダスサッカーのTシャツ姿の小川。父親の呉濤の姿は、どこにもない…。
 身寄りの無いらしい蘇丹の介護は、小川母子が引き受けるしかなかった。「夫の責任ですので、できるだけのことはします」と蘇丹に謝罪する小川の母親。おまるをあてがったり、小便を始末したりを嫌々続ける小川だが、身動きできない状態でも色気を失わない蘇丹に、思春期の心は激しく揺れ動く。
 一方、小川の母親は生命保険会社で「2年間、ご主人の消息が知れなかったら、死亡とみなして保険金が支払われます」と説明を受ける。改造した車椅子を用意し、蘇丹に「入院費がかさんで私たちにはこれ以上払い切れない。私たちの家に移ってほしい。介護はするから」と告げる母親。蘇丹は気が進まないものの、同居を承諾するしかなかった。
 不機嫌な小川、不機嫌な蘇丹。奇妙な3人の食卓を、父親・呉濤の白黒の遺影(表情が時々変わる!)が見下ろしている。彼の遺体は、まだ見つからない…。
 蘇丹が翌朝、目覚めてみると、すでに母親も小川も出かけた後。彼女は車椅子に何とか乗り移り、窓を開けてみて息を呑む。建設中の巨大な金属橋のたもとに、小川たちのアパートメントはあったのだ。

 ミニバスを運転する、屈強な体格の小川の友人・大志。小川は気になる同級生の青青も誘い、3人でミニバスに乗り長江べりにやって来た。大志は海水パンツ1枚になって屈託なく川に飛び込む。青青も意外に大胆に、白ブラジャーと白パンツ(ビキニではなくボクサーパンツみたいなデザイン)だけになって川に飛び込んだ。心配性の母親に長江での水泳を禁じられている小川も、思い切って飛び込む。
 濡れた髪のまま、大志の運転するバスに乗って帰途についた青青は、車内で「北京大学に進学する」と小川に告げる。小川が思い切って彼女の手に手を重ねると、青青は潔癖にも彼の手を払い「止めて! 私、降りるわ!」と大志に告げた。
 「あの娘は優等生を演じてるけど、本当はスキモノだな。俺は一目で見破ったぜ」とニヤニヤする大志。小川が下りると、大志はバスを元来た道へと戻した。そこに現れる青青。彼女の意中の男は、小川ではなく大志だったのか…?

 タクシーの廃車捨て場?に深夜入り込んだ小川は、父が長江に飛び込んだタクシーを見つけ出し、カーステレオから1枚のCDを見つけ出した。その懐メロ?のラブソングを車内で聴きながら、涙を一筋流す小川。
 彼は翌日? アパートの屋上でその曲をCDプレーヤーにかけ、狂ったように手足を動かしてギクシャク踊り続ける。呆れて見つめる蘇丹。
 「あの夜、親父はこの曲を聴いていたんだろ?」「どうやって知ったの?」「この曲を、親父の車の中で見つけた」
 ……だが、まだ蘇丹はあの運命の夜のこと、事故の経緯を、小川にも小川の母親にも語ろうとはしなかった…。

 小川の母親は掛け持ち仕事に加えて家事、反抗期の小川、蘇丹の介護と心労が溜まり、獣医医院で「あんたは死んでない…死んでない…」と治療台の上の大型犬に向かってつぶやきながら、やがて泣き出す。たまりかねて治療室に飛び込み「俺の犬に何かあったら、あんたの責任だぞ! 賠償してもらうからな!」と彼女をなじった小易は、バツが悪く、仕方なく泣きじゃくる小川の母親に付き添うことに。彼は一人で香港から重慶に来て、心理クリニックを開こうとしていたのだった。
 小川の母親に、昼間の仕事場・紡績工場診療所を案内してもらった小易は「僕にアイデアがあるんだ。ここに二人で心理クリニックを開こう! ここの工員の心理的プレッシャーを減らすんだ!」と、熱く語り出す。
 やがて小川の母親をドライブに誘い出し、車内で迫ろうとする小易(易先生って、みんなスキモノなのか…?)。小川の母親は「こんなに老けてから、こんなことがありえるなんて!」とけたたましく笑って誤魔化し、男にそれ以上手出しできなくさせる。(この手があったか!) 「今まで、ガールフレンドなんていなかった」と漏らす小易は、若くて聡明で前途洋洋に見えながらも、孤独を抱えた人間の一人だったのか…? 高台から無言で街を見下ろす2人。

 小川がいつものように準備した酒の瓶とグラスを前に、「今日から禁酒する」と食卓で宣言した小川の母。「今年の長江は水量が多いから、あんたは水には入っちゃだめ。今日も水に入って流された人がいたらしいわ」と小川に告げる母に、蘇丹も「本当よ、私も今日、窓から見てた。あの人は助からなかったわ。死んだの」と同調する。小川は反抗するようにわざとクチャクチャ音を立ててご飯を食べる。彼の頭をゴツンと叩いて「子供じみた真似はやめなよ!」とビシリと叱ったのは、母親ではなく蘇丹の方だった。(叱りながらも食卓の下で足を絡める、ずるいオトナの女なんである)

 母親が何と言おうと、今夏はシュノーケルに挑戦するつもりの小川。長江に潜って父親を探したいのだ。
 スカートを穿いて、髪型も都会の女の子らしく変えて、メガネを外して小川の前に現れた青青。彼女は近視矯正手術を受けたと小川に告げる。いつのまにか、彼女はあの大志といいムードになっていた。
 車椅子の蘇丹と共に、2人を迎えた小川。大志はKTVガールだった頃の蘇丹を知っていて、彼女をなぶるように車椅子を前後に揺らせてモーションをかける。毅然として彼を突っぱねる蘇丹。大志は悔し紛れに、小川に声を張り上げる。「小川! 彼女がおまえのオヤジと何をしたか、ちゃんと聞いたのか?」

 深夜の街角で、酒をあおる小川(未成年の飲酒は禁止ですっっ!)。彼はタクシーに乗り込み、あの父親がタクシーで突っ込んだ長江べりの現場に向かった。腕時計のストップウオッチ機能で走行時間を計る小川。

 別の日、アパート屋上で取っ組み合う小川と大志の姿があった。傷だらけでバスルームに引きこもった彼を、蘇丹が手当てする。「(相手は)大志なの? 青青のため? あんたはまだ若い、お父さんはあんたに、女の子の追いかけ方を教えた?」……愛撫するような手当ての仕方に、ついに蘇丹を押し倒し折り重なる小川だが……。結局それ以上、何もしないまま?
 海水パンツ一枚で、蘇丹の車椅子を押して長江べりに向かう小川。「KTV前で親父があんたを拾ったのが午前3時過ぎ、タクシーが長江に沈んだのが、公安によると午前5時頃。走行時間以外の約1時間の間に、あんたらは何をしてたんだ? 何が起こったんだ?」と車椅子を突いたり戻したりする小川。「何も起こらなかった!」としか言わず、やがて泣き出す蘇丹なのだった…。

 蘇丹は病院で足の検査を受け、付き添っていた小川の母親はやがてツワリのために吐く。父親は生死不明のままなのに、第2子の誕生が近いのだ。工場を案内し、小川の父親との馴れ初めを語るうちに泣き出す母親。彼女をいたわるそぶりを見せる蘇丹。
 同窓会に参加すると言う小川の母親に、蘇丹は着こなしや化粧を直してやり、ハイヒールパンプスも貸してやる。その同窓会?に、なぜか小易も同席している。

 入浴する蘇丹のために、ギプスの足にラップを巻いてやるうちに汗びっしょりになる小川。やがて蘇丹のギプスは取れたが、ムカデのような大きな傷跡が残ってしまった。帰宅してソファーの上で両足を揃えて眺め、やがて泣き出す蘇丹。彼女は小川の胸にすがりついて泣き続ける。どうしていいかわからずにいた小川だが、やがてフィギュア人形用の絵具(アクリル絵具?)で、蘇丹の傷跡の上に刺青のように赤と青の花のイラストを描いていく。
 「あんたの父親は、女の子の追いかけ方を教えた? 率直な気持ちを彼女にぶつけるのが、いちばん効果的なのよ」と、姉のように教える蘇丹。その部屋の外で、小川の母親が黙ってたたずんで遺影を見上げている…。

 勉強部屋で、蘇丹のフィギュア人形を作る小川。夜更けに流し台で、かがんで皿洗いする母親。

 翌日なのか、青青を呼び止めて小川は言い放つ。「俺はおまえが嫌いだ。おまえは俺の知ってる女の子の中でいちばん醜い!」。そして彼は階段の上から見守る蘇丹に、Vサイン?を作ってみせる。 青青は、大学に戻ると告げる。「そうか、再見!」と動じない小川に、なぜか青青は抱きつくのだった。「あんた、何にも知らないのよ。私と大志の間には何もなかったのに。彼は私の近視矯正手術の費用を出してくれただけ。私、少しは前よりもマシになったでしょ?」
 それが青青の精一杯の嘘なのか、真実なのかは…?

 母親が懸命にモップかけしているというのに、ソファーに座り込んでテレビのお笑い番組?を看ている小川と蘇丹。挑発的な小川の態度についにキレて、母親は息子を追い掛け回し、棒で叩こうとする。市場の中まで追いかけっこは続いた。
 母親に棒で叩かれた傷を手当てしてくれる蘇丹に、小川は打ち明けた。実は父親もよく息子の彼を叩いた、時には理由もなく、ただ苛立ったというだけで、と。

 母親はある決意を固め、小易に「お金を用立てて」と頼む。ビニール袋に無造作に入れた、いかにもかき集めたという感じの2万人民元を、インターコンチネンタルホテルのロビーで小川の母親に渡す小易。だが彼はタチの悪そうな男たちに「いつ俺たちの金を返すつもりなんだ?」と小突かれながら、小川の母親の前から姿を消した。彼を案じながらも、その金を持ち帰って診療所でホーロー容器に湯を入れ、お札に即席熨斗をかける母親だった。
 
 病院の廊下で、「あんた、出てってちょうだい」と蘇丹に宣言する母親。「いつ?」「明日にでも」「お金ないもん」と居直る蘇丹に、母親は小易からもらって熨斗をかけた金を出す。「私の片足が、たったの2万なの!」と鼻で笑う蘇丹。「夫の生命保険金は2年後にしか出ない、うちにはもうこれ以上のお金はないわ。うちの息子ときっぱり縁を切ってくれるわね?」
 「じゃあ、行くわ。ああそうそう、あんた酒を飲むわよね、おなかの子に影響出ないかしら?」と言い捨てて、金を受け取らずに一人去る蘇丹だった……。

 母の画策に小川が納得するはずもなく、松葉杖を突きながらKTVガールに復職した蘇丹が、ある夜入った個室(VIPルーム?)に一人待っていたのは…?

 交通事故の被害者と、加害者?の家族が、反発を越えて奇妙ながら親密な家族関係を創り上げてまた壊していく物語でもあり、遺体が見つからないまま長江に消えた男を巡る二人の女の対立と理解の話でもあり、オトナの女の色香に思い切り迷いながらも事件の真相を知りたいと願う少年の愛憎劇でもある…という、これは幾重にも仕掛けが張り巡らされた、複雑な物語なのでした。

 当初は、少年が探偵役となって、あの事故の夜、父親と蘇丹の間にどんなことが起こったのか謎解きをしていくのかと思ったのですが、どうせ關錦鵬監督の「地下情」のようにはぐらかされるのかとも覚悟していたわけで(あの「地下情」の肩透かし具合、消化不良具合は、未だに恨みの種…)。しかしさすがにそれでは現代の観客が承知しない、香港一般公開は望めないと製作側も解っていたのか、後に、ちゃんと謎は解き明かされます。父親と息子が、意図せず同じ台詞を口にするのも因果応報…じゃない、因果な話で。遺伝子情報にその台詞が印刷されていたとしか思えないシンクロ具合(^_^;)

 エリックボス、いやエリック・ツァンは、こないだ見た「カンフー・ダンク」の丹下段平、いやオヤジとは打って変わって、平凡なタクシー運転手に成り切ってます。映画プロデューサーの貫禄、ボスの風格を、見事に隠し切ってる。何を演じても安心して観ていられるなあ。

 ジャン・ウェンリー蒋[雨/文]麗は、「大地の子」で上川隆也の妻となる善良な看護婦役、「さらば、我が愛〜覇王別姫」では程蝶衣の母親の娼婦役を演じた中国女優。生活に疲れ切って、でも枯れ切らずにまだまだ色香を残す女を演じさせたら天下一品。

 何よりの驚きは、小川を演じた「壇健次」という少年です。…名前が日本人みたい?といぶかしく思うより何より、その容貌があまりに、デビュー当時の、まだ10代半ばだったニコラス・チェー謝霆鋒に似すぎている! ニコちゃんの血を分けた妹よりもそっくり! もしやニコパパ謝賢、中国で10数年前に落とし子を…?と疑わしくなるほど、そっくりなのでした。でもニコラスの方があまりにもノーブルだったし、笑うと本当に可愛かったけどね。
 いやー、中国ってホントに広いんだなあ。いつか壇健次クンとニコラスが、兄弟役で共演してくれないかなあ。そして、誰かがいつかあの広大な国土から、トニー・レオンそっくりの若き才能溢れる少年を発掘してくれないかなあ、などと妄想するnancixなのであった。

 ちなみに映画鑑賞後、ニコラスファンの友人にメールして彼女からの返信を受け取るまで、この映画のタイトルを「彼岸」だと思い込んでいたのも、nancixである。

 ……つくづく、バカ。
posted by nancix at 23:55| Comment(0) | TrackBack(2) | アジア映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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