公開2日目の映画「
消えた天使」を、「傷だらけの男たち」上映が終わったばかりの
三宮シネフェニックスで鑑賞。
職人アンドリュー・ラウ劉偉強監督、ハリウッドデビュー作でも映像マジックを駆使して、現在と過去、現実とイメージ、幻想と幻想の境界を軽々と超えて、観客をたっぷりと幻惑してくれます。このMV的手法、多分今後のハリウッド映画でも多用されて定着していき、いつかは飽きられてしまうんでしょうね…。
いやはや、それにしてもオトコの"アングリー・コントロール"について、「傷だらけの男たち」に続いてまたも考えさせられましたよ。
「怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ」 哲学者フリードリヒ・ニーチェの「善悪の彼岸Jenseits von Gut und Bose」に書かれているというこの警句を知ったのは、一世を風靡したロバート・K・レスラーの著書「FBI心理分析官―異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記」によってだった。
いきなり臆面もなくこの警句を掲げるとは、なんと正攻法な映画なんだろーか。
「羊たちの沈黙」以来、どれほどのサイコサスペンス小説を読んだことか。レスラーが「捕食者」と呼んだサイコパスと闘う、刑事やFBI心理捜査官や精神科医、そして女性検屍官。
なかには捜査官の恋人の女性精神科医が、自分の家族による性的虐待のトラウマによる多重人格のシリアル・キラーだった!なんて何でも入りの荒唐無稽な筋立てのものもあって、最後まで一読するやすぐにBOOK OFFに叩き売ったけど。
もちろん、中にはそれこそ長く深淵を覗き過ぎたせいで、コッチの世界に戻れなくなった刑事もいて、ジェイムズ エルロイの「血まみれの月」「ホプキンズの夜」「自殺の丘」に登場したロス市警強盗殺人課のロイド・ホプキンズ部長刑事などは、上司も部下も敵に回して暴走しまくっていた。ま、「ブラック・ダリア」作者のエルロイ自身が母親を絞殺され、10歳にして深淵を覗いてしまった作家だからね。
どうしてそれらの小説に読みふけっていたかというと、猟奇的殺人や虐待に興味があるというより、ニンゲン自身に興味があったから、としか言いようがない。
想像を絶する鬼畜の所業に出くわした被害者とその家族と捜査官が、どうなっていくのか。どうしようもないほどの心の傷は、果たして癒やされることはあるのか。何によって癒やされるのか。
だから「羊たちの沈黙」のクラリス・スターリング捜査官は好きだが、その後のレクター博士を自身の分身とばかりに大活躍させて彼女を虜にさせて悦に入ってるような作家自身は、好きじゃない、とは以前から言っていることだな。
ところで、米英のそれらの小説に食傷するほどに登場した刑事や捜査官ではなく、しかし性犯罪者と最も関わるべき存在なのが、米国公共安全局の監察官。捜査協力者または妨害者としては今までにも小説内に現れた気がするけど、この「消えた天使」で初めて主役として意識したよ。日本の「保護司」とはかなり意味合いが異なるようだ。
米国で、7歳の少女が、向かいに住む累犯性犯罪者にレイプされ絞殺されプラスチック容器に押し込められているのを発見された、両親は性犯罪者が向かいに住んでいるのを知らなかったという実際の事件と遺族による運動を契機に作られた、出所後も性犯罪者の名前、住所を公開する法律「性犯罪者情報公開法」(本作映画ではミーガン法とあるが、被害者の名前からメーガン法だと主張する人もいる)によって、性犯罪の前科者は等しく、公共安全局の監察官に居所を把握され、行動をチェックされることになる。しかし、
監察官一人に対して、担当する"登録された性犯罪者"は1000人だと、この映画は冒頭で説明する。
1人で狡猾な性犯罪者、しかも性衝動に突き動かされると理性も体面も世間体も吹っ飛ぶ相手を、1000人もチェック? そりゃどう考えたって無理だよ…激務過ぎる。
かくして、18年間という長きに渡って監察官を続けてきたエロル・バベッジ(「Shall We Dance?-シャル・ウィ・ダンス?」と比べてもおっそろしく老けたリチャード・ギア、しかし劇中で彼はエロールとフランス語っぽく呼ばれていた気がするんだけどな)は、燃え尽きる寸前である。彼の退職まで、あと18日。そこに赴任してきたのが、新米監察官の若い女性、アリスン・ラウリー(クレア・デインズ)。上司のスタイルズに、彼女を指導するように言い渡されるエロルだが、一方スタイルズはアリスンにも、バベッジについて何かを示唆した様子だ。
この上司のスタイルズを演じている男優、一目で(あれっ見たことがある!)と直感しました。そう、あのデヴィッド・リンチのテレビドラマシリーズ「ツイン・ピークス」で、ローラ・パーマーの父親リーランド役で怪演を見せていたレイ・ワイズでしたよ! あの、大真面目に歌い、踊り、泣きじゃくるオーバーアクションを思い出すと、しかも彼の家庭内性虐待がローラ・パーマー殺害事件の発端だったことを連想すると、皮肉過ぎて(コイツも実は…?)と最後まで疑いが捨て切れなくて、困りました…。
かくして、バベッジとアリスンは師父と師妹、または暴走男とそれを監視しコントロールするべき冷静沈着女、という複雑な関係のコンビとなる。
…この「暴走男とそれをコントロールするべき冷静沈着女」、しかし否応なく暴走に巻き込まれてほだされて行動を共にすることに…の図式は、Xファイルシリーズのジョン・モルダーとダナ・スカリーを模倣しているようで、これまた新鮮味がないんだよねえ…香港映画なら絶対に、ベテランと新米の男性コンビにして腐女子もワクワクドギマギさせてくれるところなのに。米国だと、女の母親的包容力と洞察力と忍耐で、男のアングリー・コントロールをやろうってことになってしまう。ジョン・ウーも「ブロークン・アロー」で、主人公と男まさりの女性をペアにさせられていて、ファンを少々ガッカリさせましたっけ。
バベッジはアリスンを伴い、担当している登録者たちを訪れる。その強引さ、あからさまに現在進行中の犯罪者扱いして尋問する態度、プライバシー侵害ぶりに、アリスンは嫌悪感さえ覚える。中には過去の犯行があまりにセンセーショナルだったのでペーパーバック「LOVE and DEATHs」が出版されたほどの登録者もいる。それが、現在では美容師として働くビオラ(ケイティー・ストリックランド)。やつれた地味な現在のビオラには、バラバラ殺人3件で死刑になった夫とつるんで、被害者を拉致・性的暴行に加担していた頃のパンク女の面影はない。ビオラは「私も夫に被害者の予行演習に使われた、被害者も同様。それなのにバベッジは毎週、私に嫌がらせに来る」と語り、アリスンのバベッジへの反感を強めさせるのだった。
このビオラと、死刑になった夫って、いわゆる共依存によって相乗効果を呼び最悪の犯罪を次々に起こしてしまう"ハネムーン・キラー"なんですよね…デヴィッド・バーニーとその妻キャサリンとか、ジェラルド・ギャレゴと妻のシャーリーンとか、実在するペアが何例も。胸が悪くなるような行為を幾つも犯した連中です。
一方、登録者の一人でハンサムでインテリで裕福、交際する女性を飴とムチで支配し操縦するのが、エドマンド(ラッセル・サムズ)。「饒舌で一見魅力的 /過大な自尊心、自己中心的 /異常なほど嘘をつく /後悔や罪悪感が全くない /冷淡で共感がない /行動の責任を取れない」のサイコパスの典型に当てはまる…のかな。
ちなみに、先日来日したものの疲労でダウンしたと話題の歌手アヴリル・ラヴィーンは、エドマンドの現在交際中の金髪少女として登場する。
バベッジに名前を問われて「ベアトリス・ベル」と答えるのだが、耳変質者のnancixは「ベアトリス・ダル」と聞き間違えてププッと笑いそうになった。「ベアトリス・ダル」だと、あの、作家の卵の男を愛しすぎてどんどんわが身を滅ぼし、男に絞殺される「ベティ・ブルー/愛と激情の日々」のヒロインを演じたフランス人女優である。まああの映画では、男が最も美しかった頃のジャン=ユーグ・アングラードなので、何をされても悔い無しだろうけど。
ベアトリス・ダル本人って、プライベートでも麻薬や傷害事件で逮捕歴があり、なんと刑務所へのボランティア活動中に服役中の囚人と結婚してしまった、典型的な共依存型の女なんである。そりゃリチャード・ギアも皮肉をこめて「そりゃ素敵な名前だ」と言うわよね。案の定っていうか、アヴリル・ラヴィーンにしてはあまりな目に遭わされて……なんだけど。
アヴリル、よく引き受けたなあ、こんな端役。同じ人気歌手でも、日本のあ○だったら、いくらアンドリュー・ラウ監督からの出演要請でも絶対に断ってるよね。
もとはしさんも
ブログでおっしゃっている通り、「
アヴリルちゃん、オマエはそんな役柄でホントにいいのか!」ですよ! 今後のフィルモグラフィーでずうっと「処女作は『消えた天使 The Flock』」と書かれるんだぞ! そしてうっかりDVDを手に取った世界中のファンは、キミのあの姿を見てしまうんだ!
このエドマンドはニューメキシコ州に引っ越してきたばかり。バベッジは「ウェルカム トゥー ニューメキシコ」とか、エドマンドに皮肉な歓迎の台詞を吐く。後に、エドマンドが夜の専門学校?前で女生徒を物色し、獲物として狙いを定めている時に、覆面の大柄な男に棒でめった打ちにされるのだが、その男も「ウェルカム」と一言。
……バレバレですよ、バベッジおじさん…_| ̄|○
もうちょっとうまいこと、自分だとバレないような手口考えないと…。
このバベッジの暴走ぶり、果たして退職を目前にして、いっこうに減らない卑劣狡猾な犯罪者に思いつめての確信犯的行為なのか、彼の中の別人格がそうしていて本人格には記憶がないのか、映像では定かではない。
「傷だらけの男たち」の阿頭は、アングリー・コントロールを本人としてはきちんと出来ている上での、計画的犯行(しかも周囲がある程度容認…コラコラ香港警察!)だったけど、バベッジの場合はどうなのだろう。
バベッジの変容は、やがてダイナー(食堂)のテーブルの上に、自分の癖と同じように、性犯罪関連のニュースや統計結果を報じる記事に、マジックで丸をつけた朝刊を発見して動揺するまでに至る。アリスンは、これが同僚たちのイタズラではないかと推理、帰宅後に同僚に電話して聞き込みするが、ある同僚が「バベッジは6年前にある誘拐事件にのめりこみ過ぎ、トラブルを抱えて、銃を持ち歩くようになった」と彼女に告げる。その誘拐事件とは、女子大生のアビゲイルが大学から突然消え、行方不明になったまま未解決に終わったもの。エロールは今でもアビゲイルの両親のもとを尋ね、悲しむ母親を慰め「自分にはもっと何か出来たはず」という悔恨にさいなまれているのだった。
そして映画の冒頭で示唆された通り、またしても馬術を楽しんだ直後の女子大生ハリエット・ウェルズが、乗馬ブーツを残して、消えた。
警察の捜査は難航し、捕えられた彼女がベッドにくくりつけられ、絶叫を上げていても誰も気づかない…。
バベッジはこのハリエット事件を知り、業務を超えて関わろうとし、ハリエットの自宅で、警察に追い返される。涙目を伏せて煙草を吸うハリエットの母親のやつれた姿をかいま見たアリソンは、その深い哀しみに胸を締め付けられる。しかし、バベッジの暴走は諌めなければならず…。
ハリエットの乗馬ブーツが発見された踏切に、バベッジとアリスンは立ってみる。(現場100回は東西問わず鉄則ですな)。バベッジは踏み切りの向こう側に立つアリスンにハリエットを重ね合わせ、幻覚を見て眩暈を起こす。アリスンは、貨物列車の乗務員が拉致を目撃している可能性に気が付く。警察には何も話さなかった乗務員らだが、アリスンには正直に「女の子が車の中の人物に話しかけているのを見た。しかし運転席ではなく、助手席の方に話しかけていたね」と話した。
拉致監禁犯人は、複数?
拉致監禁犯人は、ハリエットと顔見知り?
バベッジとアリスンは登録者の一人、ポルノカメラマンのグレンが根城にしているスタジオ?に乗り込んだ。(まるでお化け屋敷だよこれじゃ…(^_^;)) SMプレイに身もだえする刺青女に、今にもグレンが刃を向けようとしたその時…バベッジらの侵入に気づいて、グレンは愛犬と共に車で逃げ去った。グレンのラボに有ったネガフィルムを、バベッジはやはり登録者でスーパーの現像ショップで深夜働いている黒人男のもとに持ち込み、脅して現像させた。そこに写っていたのは、数枚の人体の部分と、ベッドに縛り付けられている少女。ショッピングモールで虚ろに少女たちを眺めていた別の登録者を脅し、少女を紹介させたバベッジ。生存していた少女の証言によって、次第にハリエット拉致監禁事件の犯人の姿が明らかになっていく…。
バベッジはアリスンの自宅に同行するが、世間話どころかどうしても尋問風にしか話せない。やがて彼はソファーで寝込んでしまう。アリスンが自分の寝室に戻り、ベッドでビオラと夫の実録風小説を読みながら眠りかけると、猛犬が吠えかかってきた。逃げ惑うアリスン。バベッジが彼女を庇って犬に腕を咬まれ、重傷を負う。犬は外で待っていた、グレンのピックアップトラックに乗って逃げ去った。これは犯人からの報復か、牽制なのか。
ハリエットから母親に「西海岸にいる」と電話があったことから、警察は単なる家出だと見て捜査を打ち切ろうとする。バベッジも、暴漢にめった打ちにされてケガを負ったエドマンドからの抗議で、退職が早まった。アリスンの自宅に、いきなりバベッジが現れ、彼女をかき口説いてハリエット捜索に協力させようとする。性犯罪者と変わらぬ常軌を逸した不法侵入と脅迫ぶりに、アリスンは恐怖に震えながらバベッジを追い返そうとする。車の中で悄然とするバベッジ。やがて、車の窓ガラスがノックされる……。
>>続きを読む